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「夢物語への挑戦 フリーでコーヒーを淹れる理由」|自転車旅人・西川昌徳さんのdailylife stories#9

西川 昌徳 dailylife stories

僕がこのフリーコーヒーの自転車旅 dailylife bicycle coffeeをやっていて、コーヒーを飲みに来られた方々にかけられる言葉は数多い。どうやって旅人として生きているのか、結婚しているのか?そもそもどうして自転車なのか?というのはこの旅でなくても日常的に質問されていることなので省いたとして、この旅でいちばん多くかけられる質問はこれだ。

「どうしてフリーなの?」

この質問には「これだけしっかりしているのに、お金とらないなんてもったいないじゃん」というニュアンスが溶けてることが多い。

「いえいえ、ひと通りコーヒーを堪能してもらってから最後にしっかり請求書が出てきますから!」とか「もしかしたら何かの勧誘の申込書が出てきますよ!」と冗談で言って、3回に1回はスベってしまい、そこからマジメに話す。そして大抵は会話の流れを取り戻す。

*お金だけが生きることではない*

前回、「心ある社会のつくりかた」という内容で書いたけれど、やっぱり僕は人の心に余白があって、その余白が重なり合ったときに人は打ち解け合うことができるのだと思う。その街で人と人がフラットな気持ちで出会うことのできるツールとして僕はコーヒーを淹れているだけのことだ。これは、外国の飲食の屋台や日本にも昔あった井戸端会議と同じようなもので、境界線があいまいのほうが、ちょっとゆるい方が人の心はほぐれて気軽にコミュニケーションがとれる環境が生まれているんだろうなと思っている。

そして今回書きたいのは、どうしてこれだけ時間も手間もかかるコーヒーをフリーで提供しているかということについて。

お金をとっても、とらなくても、何かきっかけを求める街ゆく人にひとりでも多くコーヒーを飲んでもらいながら人の出会いを生み出すことができたなら、自分が社会に対して投げかけるメッセージとしてはある程度の効果があると思う。

「お金が書いてあったほうが来やすい人もたくさんいると思うのになぁ・・・」なんて言われることももちろん多いけれど、僕は自分がやっていることの対価をお金に変えてしまったらお店屋さんとなんら変わらなくなってしまう。僕がこの旅に込めているもうひとつの思い、それは「お金だけが生きることではない」というのを実証するためでもあるのだ。

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*思いがめぐる社会のほうがいい*

お金がなかった時代って、モノとモノを交換したり、モトとコトを交換して人は生きていた。そのころって今よりも、人が関わるなかでお互いが納得して終われることが多かったんじゃないかって思う。お互いの思いの釣り合いがとれていたんじゃないかって。けれどお金というものが発明されて、そのうちにお互いを行き来する思いよりも、お金に価値が置かれるようになった。そしたら多少誰かの気持ちを犠牲にしたり、見ないようにして、お金が少しでも多く手元に来るように考えるのは人として当然の成り行きだと思う。

僕は小学校でキャリア授業を担当することが多い。

「仕事はどうしてするの?」

「お金のため」「誰かのため」

これがキャリアの授業で行われる当然の問いと子どもたちの答え。

この「誰かのため」がいまの社会では見えにくくなってきたと思う。とりあえず生活のためだから仕方がない。せっかく思いをかけても返ってこないかもしれないし、かえって迷惑がられるかもしれない。そんなことになるくらいなら人との関わりを持たないほうが心穏やかに日々を過ごせる。この先にはどんな社会が待っているのだろうか。だから僕は行動を起こすことにした。

できることなら思いがある、思いがめぐる社会のほうがいい。

それは誰だってそうだと思う。けれどそこに自信が持ちにくい現実がそこにある。

だったら僕が無一文からフリーコーヒーをはじめて実験してみよう。というわけだ。

そうして去年の6月にこの旅をはじめ、北海道をまわり、真冬には富士山のまわりで凍えながらコーヒーを淹れて、四国でいつのまにか春に追いつかれて、いまは九州までやってきた。いまは熊本にいる。もうすぐこの旅も1年になる。そろそろ終着駅だ。

昨日もたくさんの方にコーヒーを飲んでいただいた。パンやお菓子が返ってきた。コーヒーのための水を買ってきてくれる人がいた。お金を置いていく人がいた。このお金で私の大好きなコーヒー屋に行って、マスターと話しながらコーヒーを飲んでもらいたいと500円置いていく人がいた。涙ながらにあなたに会えてよかったと帰っていく人がいた。

ヘトヘトになるまでコーヒーを淹れて、話をして、僕の手元には生きていくための食べ物とお金が少しある。僕には豊かな気持ちがある。人は思いと思いを交換して生きてきた。それは今の社会からしたら夢物語なのかもしれない。けれど僕はもうしばらくのあいだ、その思いを見つめてコーヒーを淹れる旅を続けていこうと思う。思いを込めて誰かのために起こす行動が、生きていくことに繋がっているということを僕は自分の実験で証明したい。

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(つづく)
(執筆:西川昌徳)

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プロフィール

西川 昌徳(にしかわ まさのり)さん
Masanori Nishikawa

自転車旅人
1983年兵庫県姫路市出身 徳島大学工学部機械工学科卒業
世界36カ国90,000km。世界中を自転車で旅する中で生まれた思いや学び、気づき、出会いの物語を伝える旅人。旅先と日本の学校をテレビ電話でつなぐ課外授業「ちきゅうの教科書」を実施するほか、日本各地で講演会を実施。地球上で最も活躍した冒険家、挑戦者、社会貢献活動を表彰するFAUST A.G. AWARDS 2014 ファウスト社会貢献活動受賞。

>>EARTH RIDE – MASANORI NISHIKAWA official website

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