「旅人とコーヒーが出会うまち」|自転車旅人・西川昌徳さんのdailylife stories#5
*日本一周以来12年ぶりの小樽だ。*
思いがけず多くの出会いと再会に恵まれたニセコを離れ、いくつかの山越えのあとに海がひらけた。海に向かって少しくだりながら広がる港町、日本一周以来12年ぶりの小樽だ。
当時は京都の舞鶴からフェリーに乗ってこの小樽の港にやってきた。自分と同じ自転車の旅人と一緒に港の近くの公園でテントをはったっけ。そうだ、キャンプの翌朝、公園を散歩してるうちに干していたゴアテックスのジャケットを盗まれて必死に探し回ったこともあったな。
あのころの苦い思い出と少し高かった勉強代は、年月がたてば少しだけあまい余韻を残して心からたちのぼってくる。
小樽駅前でざっと地図を眺め、商店街に向かうことにした。
はじめてのまちでは、自転車を走らせながらコーヒーを淹れる場所を探していく。
ただ人通りが多いところを目がけるのではなく、ここにコーヒーがあったらほっと一息つけるかな、というところを頭で描きながらペダルを踏むまちを眺める。
駅から少し下ったところにある少しひなびた商店街は、シャッターが閉まっているところも多く人通りもまばら。
うーん、ここじゃないなぁ。
なんて思いながらスマホを開くと、旅をしてるの?と地元の方が声をかけてくださった。
小樽運河なら地元の人は少ないかもしれないけれど人通りはあるそうだ。海までつづくゆるやかな道を下ってそこを目指した。
*失敗した・・・。*
失敗した・・・。
小樽運河の少し手前、右手に多くの人で賑わう通りが見え、そのまま人の流れに吸い寄せられるように曲がるとお土産物屋さんが立ち並ぶ通りに出た。
甘かったり、香ばしいカオリがあちこちからしてきて、色とりどりのお土産が通りにはみ出して飾ってある。
外国人が半分以上だろうか、みんなお店をのぞいては、次の店へ向かう。なかにはたくさんの紙袋を抱える人たちも。
ちょっと混みすぎてるし、カフェもあるし、ここもどうかなぁなんて思っていたところ、土産物屋が切れた先にちょこっとした広場があらわれた。
考えるよりやってみよう。そう思ってテーブルを開いた。
10分、30分、そこからは5分刻みだ。ついついスマホを開いて時間を見てしまう。まったく人が立ち止まってくれない。
1時間が経つころには、すっかり自分のやっていることにも自信をなくしてしまい、とりあえず店じまいをすることにした。
はぁ・・・なんだかわざわざ寂しい思いをしに小樽に来たかのような心持ちになりながら片付けをする自分にまた情けない気持ちになる。
テントを張れるところを探そうか、それともどこかでリベンジするか、なんて考えていたらいつのまにか小樽運河の入り口に出ていた。
右手にはレンガ造りの工場跡(現在はレストラン)が立ち並び、対岸は遊歩道になっている。さっきまでいた通りとは違って、人もどこかゆったりと流れているような。
よし、もういちどだけ。そう思ってまたテーブルを開いた。
小樽運河でコーヒーを落としはじめると、あっという間に人だかりができた。
なんだこれ、先ほどとのあまりの状況の違いに自分が戸惑ってしまう。
まぁとにもかくにもコーヒーしっかり淹れさせてもらおう。
韓国から新婚旅行に来た夫婦、台湾からの家族、そしタイの家族。夜の小樽運河は外国人がとにかく多い。街灯のオレンジに照らされた工場跡が水面に映ってなんとも幻想的な風景だ。





暗くなるまで、と思っていたのに人が途絶えず、結局8時ごろまでコーヒーを淹れていた。
たくさん話してコーヒーを淹れて、すこしだけ湿ったような疲れ心地がかえって気持ちよい。
今日のできごとを振り返りながら、少しゆっくりと丁寧に道具を片付けていく。
*一区切りつけてスマホをひらくと、*
一区切りつけてスマホをひらくと、キューバをともに走った自転車仲間からのメッセージが入ってた。

なんてこった。
僕の活動を追っかけながら、彼のつながっている小樽の友人にコンタクトをとってくれていたのだ。
しかもその方は小樽でゲストハウスをされていて、まだ会ってもない僕のことを泊めてくださるとおっしゃってる。
テントを張る場所をこれから探そうと思っていただけに嬉しさもひとしお。すぐに電話番号を調べてご挨拶のお電話を差し上げた。
小樽の市街地を山に向けて走った、はずれのほうにゲストハウスはあった。
アットホームな雰囲気の建物にゲストハウス山小家と看板がある。インターホンを押すと、人懐っこい笑顔を浮かべたオーナーのやまさんが赤ちゃんを抱っこして、迎えてくださった。
簡単に自己紹介を済ませたあと、ゲストハウスの使い方を説明してもらう。奥さんが、「ごはんまだよね?」とあったかいうどんを用意してくださった。
疲れたカラダとココロにあたたかさが染み渡る。ごはんをいただきながら、やまさんは人力車夫として働きながら、世界を旅したことを話してくださった。そうして今度は自分が旅人をもてなす立場になろうと、ゲストハウスを開かれたそうだ。
本が好きで、古着が好き、いまはゲストハウスを経営しながらFREEDOM BOOKSという古本屋を路上でやっている。
なんだか自分と重なるところが多くてすっかり意気投合し、お互いのことを語り合いながらあっという間に時間は過ぎた。
翌日も小樽運河へ・・・(次のページに続きます)
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