「予定も見通しも、持たない旅」|自転車旅人・西川昌徳さんのdailylife stories#3
目次
*さあ、北上だ*
10日間ほど滞在した東京。最後の夜は友人の事務所の屋上にコットを置いて眠った。
さあ、北上だ。


6号線を北上すると、だんだんと緑が増えて空が広くなっていく。橋を越えればそこは茨城県。

そりゃ僕だって、町で見知らぬ人に話しかけられることはある。
「○○に出ていましたよね?」「Facebookいつも見てますー!」みたいな感じに。
けれど、初めて行った町のほんとに思いつきで入った吉野家で、隣に座った方に
「自転車で旅してるんですよね!?」
と挨拶も何もすっ飛ばして、いきなり僕を覗き込むように話しかけられるとギョッとする。
あまりのびっくりに挙動不審になっていないか、ビクッとしちゃったんじゃないかと、これを書いている今思ってみたりする。
「えぇっと(落ち着け自分)どうして分かったんですか!?」
そこから会話は始まった。
相手は学生さんカップル?ご夫婦?いやもしかして親子?な感じの女性と男性。女性のほうが常に会話をリードしている。
どうしてこうなってる…?
今の状況に追いつこうと、僕の頭はグルグルしている。こりゃまずい展開か?と思う手前くらいで助かった、彼女がこの経緯を話してくれた。
「この近くであったマルシェに遊びに行ってたんですけど、帰ろうと車で走っていたら日本一周って見えて!
私達も自転車乗るので、応援しないと!声かけないと!って実はもう少し先にある交差点のところで張り込み(ほんとにこの言葉使ってた)してたんですよ!
そしたらお兄さん吉野家に入っちゃうんだもん!私たちお昼食べちゃってたんですけど、しょうがない!と追いかけてきたんです!」
満面の笑みでそう語る彼女は、僕が授業で関わる小学生たちのようにキラキラしている。
僕もその笑顔にすっかり落ち着いて心開くことができて、今回の旅のこと、コーヒーのことを話した。
えー!とか、すごーい!飲みたーい!とかひと通り、吉野家に響き渡る素敵な言葉の数々を頂戴したあとに彼女が切り出した。
*ちょうどいい場所がありますよ!*
「ちょうどいい場所がありますよ!つくば霞ヶ浦りんりんロードって知ってます?私たちもご一緒させていただきたいので、現地で合流しましょー!」
予定を持たない旅。目の前の人に合わせることができる旅。
僕はこんな旅がしたいと家を出てきたので、こうして誰かから提案が出たときに結構ノリでOKする。
吉野家であった彼女の提案してくれた駅は、思い描いたルートからは少し離れていたけれど、せっかくだから乗ってみようと向かうことにした。
目の前にはちょうど電車の線路が一本分ほどの幅のサイクリングロードがスーッとのびている。
右手には筑波山、左手には田んぼが広がり、並木が道路のわきに立ち並ぶ。
なんて気持ちの良い道だろう。
広がる青空のまま、気持ちもでっかくなってフロントラックに置いてあるスピーカーの音量を上げ、歌いながら自転車を走らせた。
そうしているうちに、振り返った後ろにはふたつの自転車乗りの姿。少し大きいのと小さいの。さっきの彼女たちだ。
もうすっかり前から友だちだったかのように3人で、いまは休憩所となっている駅舎跡を目指した。

休日のサイクリングロードには、ロードバイク乗りの人が行き交う。
たどりついた筑波山口駅のところでcaféをスタートさせると、ちょうど休憩に来られていた方々もコーヒーを飲んでくださった。
どこから来たの?という言葉から、コーヒーを通しておたがいのことを知っていく。今日もそんなふうに何人かの方とお話できた。


*だんだんと日が傾いていくなか*
だんだんと日が傾いていくなか、今日は石岡の友だちのところに泊まることになっている僕を、ふたりは途中まで先導してくださった。
美味しい湧き水を汲み、もうすぐ結婚されるというふたりが住むおうちの前を走り抜けて、石岡に抜けるトンネルの手前で、さよならをした。
元気の出る携帯食とたくさんの笑顔を僕に持たせてくれたふたり。どうかお幸せに。また会いましょう。
石岡市八郷という里山に囲まれた素敵なところに住む、これまた素敵な友人夫婦のお家に着いたのはちょうど日が落ちた頃。
近所に住むお友だちに声をかけてくれていて、それぞれが持ち寄ってくださったものたちと、コーヒー、そして奥さんのゆきちゃんの手料理で楽しい美味しい嬉しい夜となった。
今日もまた、思いもしない、けれどきっと想像できた以上に楽しい人たちと、良い時間を過ごしてる。





予定ってなんだろう。見通しってなんだろう。
それは生活に必要なものだけれど、ときにはそれから少し距離を置くこともいいかもしれない。
だって予定も見通しもない今日が、思ってもみない、おもしろいことになっていたりする。
知らない人たちと笑顔で何かを囲んでいたりする。
*次の地へ*
次の地へ向かおうと思いたった。外でコーヒー淹れるにはもう限界の暑さだ。

水戸駅前には元気いっぱいの学生たちがあふれていた。

コーヒーを飲みに来てくれた高校生。
たっぷりの砂糖を入れて飲んでくれた彼らは「おれたちバイトしてんで!応援してます!」とお金を置いていった。なんて男気のある高校生たち!

BMX乗りの子たちは、僕の話を聞いて旅に出たいと言ってくれた。
みんなで撮った記念撮影の写真をLINEでやりとりする彼ら。

彼らは決して遠くにいるわけじゃない。SNSやゲームばかりやってても、やっぱり彼らにも考えていることや夢がたくさんある。
*次の行き先はどうしようか。*
さあ予定のない僕の次の行き先はどうしようか。
そしてそれは急に降ってきた。
そうだ、北海道に行こう。
こうして僕は大洗港から北海道の苫小牧に渡るフェリーに乗り込んだ。

暑さと向き合うのは、僕は良くてもお客さんにとっては良くない。
いやむしろ灼熱のもと誰がホットコーヒーを飲んでくれるのか。
水筒をシェイカーに見立てた即席アイスコーヒーも限界に来たので、思い切って北の大地に渡ることにした。
フェリー代はこれまでコーヒーのお返しにいただいたお金でまかなえた!
皆さんありがとうございます!
*追記 SAZA COFEEへの訪問*
ひたちなか市では、全国でもその名を知られるSAZA COFFEEを訪問した。
コーヒーを飲んでもらった多くの方から、名前をうかがっていたSAZA COFFEE。スタッフの方にこの旅のことを話すと焙煎所に案内してくださった。
焙煎を行う黒澤さん。1日かけて各国から届いた焙煎を行うそうだ。
写真は焙煎を終え、豆の仕上がりをチェックするところ。
黒澤さんからは北海道の知り合いのカフェを紹介していただいた。
各店舗へ運ばれるのを待つコーヒー達。焙煎所内には香ばしい空気で満たされていた。
この道20年のベテランさんが淹れてくださったのはサザスペシャルブレンド。
まるみがあって香り高い美味しいコーヒーだった。
(つづく)
(執筆:西川昌徳)
プロフィール
西川 昌徳(にしかわ まさのり)さん
Masanori Nishikawa
自転車旅人
1983年兵庫県姫路市出身 徳島大学工学部機械工学科卒業
世界36カ国90,000km。世界中を自転車で旅する中で生まれた思いや学び、気づき、出会いの物語を伝える旅人。旅先と日本の学校をテレビ電話でつなぐ課外授業「ちきゅうの教科書」を実施するほか、日本各地で講演会を実施。地球上で最も活躍した冒険家、挑戦者、社会貢献活動を表彰するFAUST A.G. AWARDS 2014 ファウスト社会貢献活動受賞。
>>EARTH RIDE – MASANORI NISHIKAWA official website