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「コーヒーと対話と新たな冒険」|自転車旅人・西川昌徳さんのdailylife stories#7

コーヒーで出会いと思いを生みだす旅をはじめて、思えばずいぶん多くの人にコーヒーを淹れてきた。それはそのまま出会いの数であり、もしかしたらお互いの人生がすこしだけまじわった数かもしれない。この旅は少しだけ僕の心の余白を広げてくれたように思う。

この旅は僕が想像していたより、多くの可能性を含んでいるように思う。その可能性のひとつが、出会いと対話にあった。対話はなにも自分の思いや、ことを伝えることだけじゃない。対話は相手の思いや経験、その人が見ている世界を少しだけおすそ分けしてもらえる機会にだってなりうる。

*フリーコーヒーの意味*

もし、僕が「自家焙煎のコーヒー1杯300円」と看板をかけながら各地でコーヒーをしたとする。それでもコーヒーは売れるだろう。僕が1杯のコーヒーに込めている手間と時間には自分でも恥ずかしくないだけのものはあるから。

けれど僕がそれをしたとすると、きっとこの旅で起こっているような対話は生まれない。分かりやすいことって、ときにあっさりしている。お金で交換できることって、そのまま会話がなくてもできることだったりする。だからこそ僕のコーヒーはFREEと書いて旅をしてきた。

フリーコーヒーって、とっつきにくい。フリーコーヒーってハードルがある。遠慮してしまう人だっているだろう。

けれど逆にいえば、僕のところに来てくださる方は、その一歩をみずから踏み出してくださった方々なのだ。

その一歩分にこそ、僕は対話の余地があるように思う。だからコーヒーを淹れながら必ず会話が生まれてくるし、気づけばコーヒーを飲みながら自分の人生を語りはじめる人だって、心の悩みや不安を口にする人だっている。

あっという間に打ち解けて、そしたらこのあとごはんでも!うちに泊まってなんてことも。ほんとにありがたいことだ。

*対話と新たな冒険*

人との対話は僕にとって大切なこと。いまの日本で、僕とは違う生き方をする、それぞれの思いがあって生きている、人生を少しだけ垣間見ることができる貴重な機会なのだ。

だから僕はあえてフリーコーヒーというスタイルを続けてる。それをすることで、僕は僕の人生の幅が少しだけ広がるんじゃないかと期待してる。表現し続けるためには、自分があらたなインプットをしなければいけない。それは幅だったり深さだったり。それが止まれば僕の旅も表現も先細っていくことは明確だ。

けれども僕にまだ想像が広がっていかない冒険の世界がある。それが家族だ。

僕はこの旅でずいぶん多くの家族と関わってきた。子どもたちにコーヒーを作ってもらったり、一緒にごはんを食べることになったり、お家に泊めていただいたり。

子どもたちがパッと輝く瞬間や、みんなが笑顔でおだやかな空気がながれるときや、ときにお母さんがプンプン怒っているとき。そこに一緒にいさせてもらえることに幸せを感じる。

けれども、いつまでたってもそれは自分の想像のある程度の線から先に行くことはなくて、だからこそいつか自分もその冒険をしたいな、という単純な憧れを抱かせる。

経験はたとえそれが「悪いこと」と感じてしまうことだったとしても、その人をカタチづくるピースだ。

そうしてよかったり、悪かったり、びっくりすることだったりしながら、その人がつくられてく。肩書きや、収入源や、その人のフォロワーの数や、身につけているものや、そんなすべてがもし全部リセットされてしまったならば。

人と人が出会うときに、相手を判断する材料はその人の経験からくる、生きてきた経験値からカタチづくられた表情や雰囲気だけなんじゃないかと思ったりする。

この旅で茨城に住む親友のうちを訪ねた。彼らに新たな家族が加わったのだ。

まだ彼はちいさくてちいさくて、目が開いているけれど、まだ光くらいしか分からないらしくて。

お風呂にいれてもらうときに、泣いたらほんとに真っ赤になった。

彼を抱かせてもらったときに、自分の手のうえにいる彼の軽さと、その重さをいつか僕も経験してみたいなと思った。

新たな命を授かったときに、いったい僕の人生はどうなっていくのだろう。

すべてのいのちはかけがえのない存在で、けれども実際にその生をいただいて生まれてきた僕は、ときに人生ってなんなんだろう、とその意味や自分の存在意義のようなものを不安に思ったりする。

旅は自分探しと言われるけれど、その自分を見つけたように感じたあとにそれがまた崩れ去っていくむなしさを抱えることだってある。

もしかしたら人生とはこの世界のように動きつづけるもので、その意味や生きがいのようなものも動きつづけていて、それを追いかけ、ときに追いつき、見失いながら少しずつコツのようなものをつかんでいくものなのかもしれない。

(つづく)
(執筆:西川昌徳)

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プロフィール

西川 昌徳(にしかわ まさのり)さん
Masanori Nishikawa

自転車旅人
1983年兵庫県姫路市出身 徳島大学工学部機械工学科卒業
世界36カ国90,000km。世界中を自転車で旅する中で生まれた思いや学び、気づき、出会いの物語を伝える旅人。旅先と日本の学校をテレビ電話でつなぐ課外授業「ちきゅうの教科書」を実施するほか、日本各地で講演会を実施。地球上で最も活躍した冒険家、挑戦者、社会貢献活動を表彰するFAUST A.G. AWARDS 2014 ファウスト社会貢献活動受賞。

>>EARTH RIDE – MASANORI NISHIKAWA official website

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