旅×自転車 記事

「わたし、こういう場所が欲しかったんだ」|自転車旅人・西川昌徳さんのdailylife stories#2

*淹れたてのコーヒーにミルクを落とすときのように*

息が止まりそうなくらいの恐怖に襲われた、この旅のはじまりから数日が経った。

淹れたてのブラックコーヒーにミルクを落とすときのように、それがぐるぐると円をえがいて、だんだんとコーヒーの色が薄れていくように、旅のはじめ僕が抱いた恐怖は、なんとなくあたたかみのある、安心できるものに変わっていく。

そろそろ都心に向かってみようか。まだちょっと不安はあるけれど、そう思いたって八王子から都心へ向かうことにした。

 

「今、家にいるのだけど…どこ通る予定かな?」

都心に向かいますというSNSでの呼びかけを見た友人がメッセージをくれた。

東京の町も知らない僕はなんとなく渋谷を目的地にしてルート検索をかけ、その画面をそのまま友人に送る。

「仙川抜けるかな?そこなら息子と会いに行く〜」

と返信をもらって、僕は仙川というまちに向かうことにした。

週末の幹線道路はロードバイクに乗る人も多い。

走っていても後ろから見えるカフェの黒板に、字を書くときにも「誰か声をかけてくれるといいな」と願いを込めた。

 

仙川へ自転車を走らせる
▲仙川へ自転車を走らせる

*仙川は思いがけずひらけた街だった*

スマホのナビを頼りに、たどりついた仙川は思いがけずひらけた街だった。

駅前通りは人通りも多く、少し歩いた先のモールには有名なカフェもたくさん入っていた。

普段の自分ならまだしも、旅の空の下にいる自分にはこういうオシャレな場所は居心地が悪い。

どうするか…

 

しばらく悩んでいるところに友人からの電話が入った。

「いまコーヒーに合うお菓子を買ってるとこ!すぐ行くね!カフェの場所は見つかった?

知り合いのパン屋さんがね、今日はお休みなんだけど、お店の前を使ってもらっていいよって!」

お言葉に甘えて、AOSANさんの前でカフェを開かせてもらうことにした。

友だちと合流して、まだ準備しているうちから通りを歩く方が立ち止まってくださった。

友人がお菓子を買ったお店のお客さんも「ここでコーヒーが飲めるからって聞いて来ました。」と足を運んでくださった。

AOSANの店先をお借りできることになり開店準備
▲AOSANの店先をお借りできることになり開店準備

https://www.instagram.com/aosan_bakery

*たくさんの人に囲まれて*

たくさんの人に囲まれて、お返しもたくさんいただいてしまって。

数日前の、不安で、少しでもつながりが欲しくて、心もとなかった自分が懐かしく思えるほど、

心がしっかりとして、居心地の良い気持ちでコーヒーミルを回している自分がいる。

大丈夫。信じられそうだ。

仙川でのdailylife cafe1 仙川でのdailylife cafe2仙川でのdailylife cafe3仙川でのdailylife cafe6 仙川でのdailylife cafe4 仙川でのdailylife cafe5

*誰かにとっての居場所が生まれる*

そこに人がいるだけで、誰かにとっての居場所が生まれる。

ひとり、またひとりと誰かがコーヒーを飲んでいってくださっては、またやってくる。

サッと笑顔で帰られる方、いちどお家に戻って僕のために絵を描いて戻ってきてくれた姉妹、娘が教えてくれたんです、とSNSで僕がこの街にいることを見て、両親に連絡してくれた友人もいた。

絵を描いて戻ってきてくれた来る人来る人と仲良くなっていく明るい女の子

数時間をここで過ごし、来る人来る人と仲良くなっていく明るい女の子は、ふとこう言った。

「あれ?私なにしに外に出てきたんだっけ?

けど私こういう場所が欲しかったんだって分かりました!お兄さんありがとう!」

そうして、笑顔で手を振りながら、ビール券を置いていってくれた。

気づけばあたりはだんだんと暗くなってきて、だいだい色に染まる雲を見ながらコーヒーセットを片付けていく。

ひとつひとつ収まるべき場所に片付けながら、今日出会った人のことを思い出し、思わず笑顔になる。

手元に残っているのはほどよい疲れと、今日出会った方々からいただいたお返しのものたち。

片づけをする西川さん 仙川をあとにする次なる地へ

なんだろう。

信じられそうだ。

その感覚だけが確かに胸のなかにある。

あたりはすっかり真っ暗となり、僕は今晩お世話になる友人の家へと自転車を走らせる。

心もとなくなりそうな夜だけれど、ヘッドライトが照らす夜道は、その真ん中だけは、確かに明るい。

*その後、東京都心にて*

その後、東京でのdailylife bicycle cafeの様子。

下北沢にて。

下北沢にて

patagonia渋谷店にて

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https://www.patagonia.jp/

Nois清澄白河にて

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https://nois.jp/

(つづく)

(執筆:西川昌徳)

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プロフィール

西川 昌徳(にしかわ まさのり)さん
Masanori Nishikawa

自転車旅人
1983年兵庫県姫路市出身 徳島大学工学部機械工学科卒業
世界36カ国90,000km。世界中を自転車で旅する中で生まれた思いや学び、気づき、出会いの物語を伝える旅人。旅先と日本の学校をテレビ電話でつなぐ課外授業「ちきゅうの教科書」を実施するほか、日本各地で講演会を実施。地球上で最も活躍した冒険家、挑戦者、社会貢献活動を表彰するFAUST A.G. AWARDS 2014 ファウスト社会貢献活動受賞。

>>EARTH RIDE – MASANORI NISHIKAWA official website

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