旅×自転車 記事

【奈良県】ヒルクライム聖地、天理ダムと飛鳥 石舞台を訪ねて

「奈良でサイクリング」と聞くと、どのような情景を思い浮かべるでしょうか?鹿でにぎわう奈良公園、東大寺や浮見堂、ならまちといった定番の観光スポットめぐりも楽しいですよね。
実は、奈良は県内全域にわたり全31ルート、延長593kmにも及ぶ「奈良まほろばサイク∞リング」(通称「ならクル」)と呼ばれるルートを設定するほど、サイクリングに力を入れています。


今回は、そんな古都奈良の中でも、特に夏におすすめしたい天理ダムヒルクライム〜飛鳥の原風景を辿る65kmの旅をお届けします。

日帰り遠足気分!輪行で手軽にアクセス

スタート地点はJR・近鉄天理駅。大阪市内からは大阪メトロと近鉄奈良線を乗り継ぎ1時間強でアクセスできます。
梅雨明け前の時期なので、雨雲レーダーを見つつ、輪行で12時集合。
ちょっとゆっくりめのスタートで、17時頃天理駅にまた戻ってくる計画です。
自宅から往復ともに自走だと、気合を入れての一日がかりですが、輪行なら日帰り遠足気分。日が暮れても安心して電車で帰ることができますね。

天理駅では奈良が地元のサイクリスト、篠森吉治(しのもりよしはる)さんと、佐瀬一徳(させかずのり)さんが出迎えてくれました。
篠森さんは、趣味で奈良のサイクリングスポットをInstagramアカウントで紹介しています。
https://instagram.com/zoo_cycle
この日も坂道で先回りして撮影するなど、健脚ぶりを発揮してくれました!
篠森さんの影響でロードバイクを始めて2年目という佐瀬さんは、社会科の教員免許を取得するほど歴史が好きで、自転車での史跡探訪を楽しんでいるそうです。


左から筆者 篠森さん 佐瀬さん

天理ダムヒルクライムにチャレンジ

天理駅前ロータリーに直結する商店街のアーケードを抜け、天理環状線 布留交差点のファミリーマート大西天理東店まで出たら、いよいよスタートです。

ファミリーマートからダムの水門までは約4.3km、5〜6%前後の勾配が続きます。
最初の1.5kmほどは国道25号線沿と平行した旧道を通ると、山に入っていく感覚を味わえます。左右に山の景色を望みながら、蛇行する道を淡々と漕ぎ続け水門へ。
ダムの上から、登ってきた国道を見下ろすとその高さに驚きます。

すでにヒルクライム気分はかなり満足していますが、一息ついたらさらにもう一上り。
ここからさらに約5.5kmほど上った地点までが、天理ダムヒルクライム区間です。
全体での平均勾配は約4.2%なので、私の地元のヤビツ峠(神奈川県秦野市/約11km・平均勾配約6%)に比べると、少し気が楽です。
何より今回のコースは、上りのしんどさを忘れるほど、森に包まれる感じがするのです。
街中のもわっとした湿度と対照的な木陰の涼しさ、野鳥のさえずりはまさに森林浴ライド。
街中からのアクセスもよく、暑い夏こそおすすめしたいコースです。

「日の出前は、特に交通量が少なくて狙い目です!」と言う篠森さんは、出勤前に一人で朝練することもあるそう。
「紅葉シーズンの見晴らしもまたいいんですよね。」と佐瀬さん。一年を通じ、各々のスタイルでの楽しみ方があるのですね。

里山のダウンヒル〜長谷寺 総本山

無事に天理ダムヒルクライムを達成したら、ここからは飛鳥エリアを目指しご褒美のダウンヒル!
淡々と上るのも修行(!?)気分でよいものですが、下りの「ご褒美感」もまたたまらないですよね。
スピードの出し過ぎに気をつけつつ、自分が上った高さの悦に浸りながら、天理ダム〜初瀬ダムまで約20kmかけて標高550mほど下り、小休憩をとります。

初瀬ダムから約2.1km、ほぼ下りきったところで山の景色は一変し、門前町の情景が広がります。
ここには真言宗豊山派の総本山、長谷寺があります。
お寺の入り口には「紫陽花見頃」の看板が立ち、続々と参拝客が石段を上がっていきます。
神奈川出身の私は「長谷寺=鎌倉のお寺」のイメージが強かったのですが、実はこの2つのお寺に密接なつながりが。
なんでも721年大和国長谷寺を開山した徳道上人によって1本の霊木から掘られた2体の観音像のうち1体が、この奈良の長谷寺へ、もう1体は海へと奉納され、15年後に相模国の沖合で現れ、それが祀られたのが鎌倉の長谷寺始まりだそうです。
神奈川在住時代、鎌倉に御朱印集めに頻繁にライドで訪れていただけに、まさかここでつながるとは!驚きと不思議なご縁を感じました。

奈良 長谷寺のウエブサイトはこちら
https://www.hasedera.or.jp/

飛鳥 石舞台を訪ねて

長谷寺からさらに南へと走ること10km。
桜井市から明日香村へと入り、緩やかな登りを淡々と漕いでいけば、小高い山とのどかな田園風景が360度広がります。
ふとタイムスリップしたような、歴史の香りが感じられるのは、明日香村が昭和55年から現在まで、「古都保存法」による歴史的風土特別保存地区・奈良県風致地区になっているからでしょう。
景観計画により、建物の階数、バルコニーの設置などが制限され、視界をさえぎるものが最小限の景色が保たれています。
そのため、隣の橿原市にある香久山(かぐやま)、畝傍山(うねびやま)、耳成山(みみなしやま)からなる大和三山も見渡せます。

「とても見晴らしがよいので、子供の頃から山の名前を自然と覚えるんですよ」と佐瀬さん。
ありのままの景色が維持されているのは地元の人々のルールづくりの努力と思い入れがあってこそなのでしょう。
「春過ぎて 夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ 天の香山」(『新古今集』持統天皇)と思わず、中学校時代に覚えた句が自然と口からついて出ました。
古民家が立ち並ぶ石畳の街並みもまた旅情があり、自転車を押しながらゆっくりと歩きたい気分になります。

目的地の石舞台は古墳時代後期の古墳、国の特別史跡です。
埋葬者は蘇我馬子が「有力視」されているとのこと。何世紀経っても未だ明らかでないとはミステリアス…!草の上にどっしりと構える石(というかもはや岩)は圧倒的な存在感です。
石舞台からさらに北上した多武峰(とうのみね)もまた、天理ダムに並ぶ奈良のサイクリスト人気のヒルクライムスポット。
名前からして健脚向き…!こちらはまた次のお楽しみにとっておくことにしました。

手軽に明日香村で楽しみたいなら、『明日香レンタサイクリング』を利用してもよいでしょう。
エリア内4ヶ所の営業所でシティサイクルをレンタルできます。
日本最古の仏像を拝める飛鳥寺や、旅情の香る石畳の街並みを散策するのに便利ですね。

明日香レンタサイクリングのウエブサイトはこちら
http://k-asuka.com/index.html

まとめ

緑豊かな山々に、数々の歴史的スポット、里山の原風景を楽しめる奈良は、素朴でのびのびとサイクリングを楽しむことができる場所。
今回訪れた天理ダムは、上り下りともに信号・交通量も少なく上りの達成感、下りのご褒美感をたっぷりと味わうことができます。
篠森さんいわく「このルートを試しに走ってみて『自転車やろう!』と思った友人もけっこういるんですよ」とのこと。その土地の魅力を体感できる「自転車でこそ走るべき道」は、やはり地元サイクリストに尋ねるべきだと実感しました。

今回は紹介しきれませんでしたが、桜井市の三輪素麺や、明日香村の古民家カフェのかき氷など、夏の味覚も豊富にあります。奈良の自転車ルートを「TABIRIN」で下調べをして、ぜひこの夏、自転車でめぐってみてはいかがでしょうか。

執筆:Ayaka

2011年に社会人になると同時に始めた自転車で「自転車×旅」の魅力にハマる。
ニュージーランドでのワイナリーロードレース、タイの寺院巡り、ドイツ古城巡り、インドネシアでの遺跡巡りなど世界各地で自転車旅を催行し、その様子を雑誌『Cycle Sports』に寄稿。
2017年には自転車ツーリズムを探究しにオーストラリアへ留学。現地の様子を『Cycle Sports.jp』にて『G’day, Australia! 〜ブリスベンからの自転車だより』として1年間連載。帰国後は英語教材編集者の傍ら、自転車イベントで通訳・MC・PR担当等を務める。
座右の銘は「好きにまみれろ、夢中で生きろ」。

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