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【インタビュー】UXでオリジナルパーツ全モデル全サイズを体感。SAN-ESU BASE > 羽根倉通り(後編)


荒川サイクリングロードの羽根倉橋のたもとに2022年7月にオープンしたSAN-ESU BASE(サンエスベース) 羽根倉通り。
前編では坂井美紀社長に、ソフトクリーム店KURUについて、その思いを聞きました。
後編ではもうひとつのスペース、UX(ユーエックス)に注目。ワンバイエス、ディズナ、グランジ、ビバといった東京サンエスのオリジナルパーツの ほとんどすべてのモデル、すべてのサイズが展示されている、じつはすごい場所なんです。
どうしてこんな場所が生まれたのか、専務の上司(かみつかさ)辰治さんに聞いてみました。

東京サンエスの専務、上司辰治さん。「商品開発の多くを一人でやっています。あまり人の意見は聞かないかな。(笑)。ハンドルだったら、針金で芯を作って、そこにクレーを付けていって、モックを作る。そこまで全部一人でやります」

ハンドルだけで100本以上

UXという施設名は「ユーザーエクスペリエンス」の頭文字からとったもの。
お客さんにいろいろな体験をしてもらえる場所にしたい、そういう思いを込めました。まずは製品にさわってもらいたいんです。たとえばサイクルモードなんかに出展しても、展示できる種類は限られてしまいます。サイズも1モデルひとつだし。
だからここでどんどんさわってもらいたいんです。

世界に例を見ない施設じゃないですか、って言われることもあります。ハンドルだけで100何本ここにある。ウチの商品は一流どころで作ってるから、僕は海外のメーカーもいっぱい見てきてるけど、国内海外含めてここまでの展示は見たことないですね。

全モデル全サイズが展示されている圧倒的な状況で、おっ!と思ってもらえたら、ここにはなんでもあるとわかってもらえる。まずはつかみ、ってことで入り口右の壁全体にハンドルをずらりとディスプレイしました。全部、簡単にカチャって外せるようになってる。

モデル、サイズ含めオリジナル商品の80〜90%くらいは置いています。オリジナル以外にもキャラダイスのバッグやサスペンション式のシートポストとか、どこに行っても見られないだろうなというものを少し置いているけど、ほぼほぼうちのオリジナル中心ですね。

「モノ盗られますよって言われるけど、一度も盗られたことはない。お客さんを信じてますから。防犯カメラは外に4つつけてあるけど、それはお客さんの自転車が盗まれないように」

売り物は一切置いてない

以前、本社の4階にショールームを作ったんです。予約制で、ショップの方や一般のお客さんを対象に。ぽつぽつと見にきて来てくれたんですが、オープンは会社がやってる平日だけだし、結局うまく機能しなかった。
社内の事情で、カタログを作る時期になるとその製作部屋になったり。お客さんから注文があったときに在庫がないと、そこから持ち出したり。なかなか倉庫という認識から離れられなかったんです。

だからちゃんとしたショールームが作りたかった。しかも体験型のショールームにしたかったんです。ハンドルにブレーキブラケットをつけてあげてポジションを確認してもらったり、ここに自転車を持ってきてもらって自分の自転車にあてがってもらったり。実際にそうしてもらってます。

「最近はUXを目当てにここに来る人が増えてきています。午前中に来てソフトクリーム頼まずに出ていく人は、たいがいUX目当て(笑)。そういう人は初めて来る人が多い。だから誰かから聞いて来ていると思うんです、SNSとかで。そうやって情報がじわじわ伝わっていくのを感じています」

なんでここで販売しないんですか?とよく聞かれます。でもここには売り物は一切ない。だから傷ついてもいいので、どんどん手にとってさわってくださいと。そう言うとなるほどそういう部屋なんですねと理解してくれる。

もっと言うとここにある製品には、ブランド名とかモデル名とか価格とのタグを一切つけてない。でもそれに対しては、なんでですかと言われたことはほとんどないですね。

ふつう、ショップさんだと値札やポップや値引きやほかの商品やという、いろいろな情報がたくさん入ってきてしまって、純粋に製品そのものと向かい合えない。ここではそういうのが一切ない環境で商品を見てもらえるっていうのが、ちょっと特別だと思うんですよ。ここに来たら、みんな素になってモノを見ている。

これまでのサイクルモードなんかの経験からすると、こういったお客さんの反応はだいたい予想できたけど、実際にさわって、ブラケットまで付けてどう思ってくれるか、どれだけの人がわかってくれるかな?ってのが正直なところでした。確信はあっても自信はなかったかもしれない。でも予想以上に反応がよかった。

「ハンドルメインのセッティングで、全モデル全サイズ置いてみたらどうなるか。若い社員と相談しながらディスプレイなど考えました。彼が壁面に全部へばりつけたらどうかと。いいアイデアでしたね」

先入観のない状態で製品を見てもらえる

おもしろいのは、さんざん見てさわって最後の最後にだいたいどれくらいですか、って聞かれること。いくらですか、じゃなくてだいたいどれくらいですかって(笑)。

で、僕も全部頭に入っているわけじゃないし、カタログから価格が変わってるものもあるので「だいたい3万3000円くらいじゃないですか」っていうと、ああ、そうなんですねってなる。

ブランドや価格や宣伝文句につられて選ぶんじゃなくて、そういうのが一切ない状態でモノを見ているから、価格は二の次なのかもしれない。でもそれがうれしい。先入観のない状態で見てもらってるってことですから。

さんざん見たあげく、このサンエスって会社はなんですか?なんて聞かれるのはしょっちゅうありますね。そんな人がなんだかんだしたあげくカーボンハンドルに行きついて、ショップさんでオーダーしてくれたり。そしてそれを付けて見せに来てくれる。だからすごく楽しいですよ。

お客さんにもいろんな人がいて、悩む人もいればさっと決まる人もいる。先日は女性がサンエスベースに入ってくるなり脇目も振らずUXに直行して。1時間僕の話を聞いて、そのままショップさんに直行してオーダーしてくれた。事実そのショップさんから注文が入るからわかるんですよね。そういうのがうれしい。

実物を手にとってじっくり見られる場所として知られるようになり、ビギナーからマニアまでさまざまなサイクリストが訪れる

ここで見た後、ショップで買ってもらえるから、ショップさんもうれしいし、逆にショップさんもお客さんに、あそこに行ったらなんとかなるんじゃない?って紹介してくれる。ショップさんもハンドル1本でそこまで対応できないでしょうし。しかも僕の作るモノって、説明しにくいものが多くて(笑)。だからショップさんもUXに直接行って聞いてきて、となる。

われわれメーカーは、ショップさんなしには生きていけません。だからユーザーに直接売る気はまったくない。ウチの会社は直接通販はしていないし。でも在庫の確認はここでできる。そんなに潤沢に在庫していないハンドルとかあるからね。ここで見てショップさんで買ってもらう。それでしっかり取り付けてもらって工賃払ってもらって、また来てもらう。これがいちばんうれしいです。

お客さんも、われわれメーカーも、ショップさんもうれしくなる。ここはそれができる場所なんだと思います。

「ひとつお客さんにお願いしたいのは、たとえばここで、このハンドルにしようって決めても、それをショップさんにも相談してほしいってことです。ショップさんの考え方もあるだろうしね」と、説明しにくい商品を手に笑う上司さん

お客さんの声を直接聞ける喜び

僕ね、自分がつくったモノに対する確信は持っているんですがすぐに売れるかは自信はないんです。でもここでの対応がショップからの注文に、つまり売れることにダイレクトにつながっているのを感じる。そういうのは初めての経験ですね。どこどこのショップさんから紹介されてきました、ここで相談しました、そのショップさんから注文きましたってのがすぐにわかるのは、すごい経験ですよ。

で、ここで相談したお客さんが、それを付けて見せに来てくれるんです。その人がまた別の人を連れて来てくれます、すると前の人が連れてきた人に説明してくれるんですよ、僕がしなくても(笑)。

このハンドル付けて初めて乗ってここまで来ましたとか、付けて1200km走っても手が全然しびれませんでしたとかね。開発者からすると、ほんとうにリアルな成功体験になる。お客さんの声を聞くとほんとうに作ってよかった、という気持ちになる。

お客さんの反応を見て、内心「そうそう、それそれそれ、それを感じて欲しかったんだよ」って思うことがよくある。うーん、ってうなっている人を見ると、「そうそう、そこそこ、うーんって言うとこ!」とか(笑)。

「僕ね、これは何用ですかって聞かれるのがいちばんイヤで。これは何用ってしておかないと、お客さんが迷いますよ、って言われるんですけど、それはお客さんが自由に考えてもらったらいいことなんで」

ここは商売商売していなくて、値札とか一切付けてないから、空気感がいいというか風通しがいいんじゃないですか? みなさんそういう言い方をされる。ここは気持ちいいって。だから値札付けたりとか、そういうことは絶対にしたくない。それがいいんじゃないかな、商品を買ってくださいってことで置いてないのが丸見えだし(笑)。

新しい商品は作ってすぐはそんなに売れなくて、2年くらいしてガッと売れることが多い。

フラットタイプのバーにSTIレバーがつくこの「リリーフバー」っていうハンドルでも、最初は反応薄かったけど、今はサイクルモードで若い子が「これカッコいい」とか言ってくれてる。最近はグラベルロードとか出てきて、自転車も多様化している。だからいろんなハンドルに対して目が慣れてきたんじゃないかな。

ジャンルにとらわれない、新しい発想を大切にしたVeno(ヴェノ)のリリーフバー。STIレバーがそのまま使えるので、ハンドルを換えるだけでロードバイクをフラットバーロードにできます。

自分の自転車にここのハンドルを取り付けて、荒サイを走って体感してもらう。そういうことまでできるようになるのがこれからの目標かな。

「このサンエスベースは社長と僕、あと若いスタッフの3人でやってます。でも社長は厨房にいてUXでの僕の対応を知らない、僕も厨房やKURUでのことをあんまり見てない。そのバランスがいいのかなという気がします」

施設情報

開発者(上司氏)がUXに居ない時もありますので、KURUのツイッター、インスタでのカレンダーにてご確認ください。但し、表示していても居ない可能性もありますのでご了承ください。

▼KURU@サンエスベース
https://tsss.co.jp/kuru/

▼東京サンエス株式会社
https://tsss.co.jp/

まとめ

すべての自社オリジナル製品の、すべてのサイズをそろえて誰でも手に取れるように展示する。しかもそこで開発者といつでも直接話ができるようにする。そのダイナミックな、そしてある意味無茶な発想に、ユーザーを大切にする東京サンエスの心意気というか気概のようなものを感じます。だってさらっとお話しされてましたが、平日は会社で仕事して、週末はUXでお客さんと話して。いつ休むんでしょうこの人は?ってことですよ(笑)。でもUXでのお客さんとの出会いを、上司さんは心から楽しんでいるように見えました。

同じサンエスベースにあるソフトクリーム店、KURUがサイクリストどうしのコミュニケーションスペースであるのと同様に、ここUXもユーザーと開発者との、そしてユーザーとパーツとのコミュニケーションの場なんだと思います。

KURUとUX。このふたつの魅力をあわせ持ったサンエスベースが、今後お客さんといっしょにどんな新しい展開をしていくか。楽しみです。

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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