旅×自転車 記事

【インタビュー】茨城県自転車政策の立役者・根本博文さんに聞く

ナショナルサイクルルートに選定されている「つくば霞ケ浦りんりんロード」。
令和2年度の利用者は10万人を超えていて、「水郷筑波サイクリング環境整備ガイドライン」が完成した平成28年度から2倍以上もの人が訪れたことになります。
車社会の茨城で自転車を活用して地域振興を考えたのか、これまでとこれからについて、元茨城県職員でりんりんロードの立役者である根本博文さんに、自転車と地域振興について伺いました。

ナショナルサイクルルート2019年指定「つくば霞ケ浦りんりんロード(筑波山側)」

つくば霞ケ浦りんりんロードの整備計画がはじまったのは?

平成28年(2016年)に「水郷筑波サイクリング環境整備総合計画」を国に先駆けて策定です。

「始まりは一人の職員の“気づき”」

震災の翌年2012年に、県庁企画部にいた頃、自転車の政策に取り組み始めました。

一人の職員が休日にりんりんロードの近くを車で通ったときに、自転車で走っている人が多いので何かできるのではという考えがきっかけになりました。何気ない職員の“ 気づき” から、もしかしたら地域振興につながるのではというアイディアがスタートだったんです。

「“どうせやるなら面白く!”」

私のモットーは、“県庁の仕事は選べない、どうせやるなら面白く”でした。職員が気づいたところから、直感的に面白そうだからやってみようと動きだしました。
当時は課長というポストにいたので、動き出すのは早かったです。

「“ヒト”を探すとこから始まった」

まずは何も知識がなかったので実態調査から始めました。1、2年くらいは自転車の専門家の意見や、りんりんロード周辺で、地元ではどういう印象をもたれているのか地道に聞きこみなどしたところ、りんりんロードは、フラットで、初級・中級者、女性向けのコースづくりが可能だということになりました。
首都圏から近い本県では、これはいけるぞと確信に変わり、本腰を入れて予算確保に向かうことになったんです。
企画部の仕事は意外と地道なことが多いです。どう転ぶかわからないところに実は種があって、後に花が咲くといったものなんですよね。まさか、(計画ができて)10年経たないうちにナショナルサイクルルートに選ばれるとは思ってもいませんでした。私が一線を退いて後任の担当者が凄く頑張ってくれたおかげもあり、ナショナルサイクルルートに選ばれました。

県民に自転車に振り向いてもらうためにどうしたら良いのか、色んな人の話をきいたのが楽しかったので今でも印象に残っています。

自転車で地域振興とは

「地域にお金が落ちる政策を」

私が考える「地域振興」って、“その地域が儲かること”なんです。
他の地域から来た人たちが満足して何度も足を運ぶことだけでは地域振興になりません。地元の人たちが心を込めておもてなしをしたとしても、まるっきりのボランティアで、そこから得られる達成感だけでは地域活動の継続性は担保できないと思うんです。

地域になんらかの形でお金が落ちる仕組みが必要です。それには、多様な主体の連携も必要になってきます。行政主体だけでは決して成しえないのです。
その仕組みを作ること、考えることが地域振興策だと思うんです。その仕組みの中で、おもてなしする側の地元の皆さんも一緒に楽しめるといいと思っています。

「県や市町村単位の垣根を無くすこと 広域的政策」

自転車のイベントを開催するにしても、やる以上は主催する側も一緒に楽しんでほしいと感じています。

また、道はどこにでもつながっているので、その道路はあそこの市、あの道路は県がなどと、垣根を作ってはいけないと思っています。走りに来る人は、〇〇市で自転車乗りたいとかって来ているわけではないと思うので、市町村単位で県単位で垣根を作ってはいけないですね。

それこそ「広域的な連携政策」にならないといけないですからね。

「周回遅れのトップランナーを目指す」

実態調査と様々な人の意見を聞いたうえで、 “広域的な連携による地域振興策” として、予算を取り本格的に取組もうということになったのは、取組み開始から3年目だったと思います。

当時、関東各県では既にレンタサイクルも含め、自転車を観光に取り入れたりサイクルツーリズムを実施したりしていたので、茨城県は最後発のスタートでした。職場内では、最終目標は日本一のサイクリング環境づくり!先ずは “周回遅れのトップランナー” を目指そうと、自分たちを揶揄して取り組んでいたことが懐かしいです。

そうした取組みの成果が、2019年、「しまなみ海道サイクリングロード」と「ビワイチ」に並んで、わが国最初のナショナルルート指定につながったと思います。

茨城のサイクルツーリズムとは

茨城県は、人口割りの自家用自動車保有率が全国3位となっていて、県民の日常生活での移動は自動車に依存しています。県民が自転車を生活の移動手段としてあまり認識していないのです。通学のときに自転車を使うくらいでしたからね。

そうした中で、自転車政策の裾野をどう広げていくかは課題でした。

「五感でたのしむサイクリング 生業をみせて魅せるツーリズムを」

茨城県は、大規模な観光資源が少なく、拠点も各地域に点在していることも不利な条件ですが、一方、ドラマロケ地に選ばれるような風光明媚なところがたくさんあります。そして、その場所に行く道もたくさんあるわけです。

その資源を存分に活用し、サイクリングと一緒に楽しんでもらえると考えたときに、生業をみせ人の営みをみせることができ体験してもらい感動してもらえる観光ができるのは茨城県ならではと思いつきました。

生業をみせる観光ができないかと思ったとき、五感で感じる観光が自転車ならできるんです。車でスタート地点まで来てレンタサイクルを利用し体験してもらう観光をりんりんロードで実現できたら外向けのアピールになると思いました。りんりんロードのように180キロも走ると、いろんな地域を走ることになるのですね。
花やフルーツとかが季節ごとに変わっていくので、それを自転車と組み合わせたら地元にもお金が落ちたりするのではと考えました。直売所や農家さんのところで食べたりお土産を宅配したりと、お金を使ってもらえるんですよね。

▼外国人を交えて、つくば霞ヶ浦りんりんロード沿線でのサイクリング&そば打ち体験。

「広域レンタサイクル」

レンタサイクルだと発着地点が同じなので、長い距離を走ってくるのは大変だと思うんです。茨城県内を走って乗り捨てができると良いなと思って、行った先でレンタサイクルを返せる広域レンタサイクルをはじめました。

りんりんロードでは、例えば土浦市で借りて桜川市の岩瀬駅や潮来市の高速バスターミナルでレンタサイクルを返して電車で帰ってくるなんてことができるようになっています。各地域でそういったことができるんです。観光で来た人に往復80kmは大変ですからね。

「サイクリング・ミックス・ツーリズム!」

さらに自転車で行って電車や船でかえってきたりと、自転車は色んな乗り物とセットにして楽しめると気が付きました。茨城県は、海、山、川、湖、平地、丘陵地、山間地とすべての自然があるので、様々なアウトドア資源に恵まれています。おそらく、関東では茨城だけだと思います。

去年、自転車とカヌーを組み合わせた「ペダル&パドル」というイベントを企画したんです。

サイクルツーリズムではなく、それらアウトドア資源をサイクリングに組み合わせて楽しむサイクリングミックスツーリズムが茨城にはぴったりだと思いました。

海、山、川、湖と自然豊かな茨城県では、可能性がたくさんあると感じています。今までは、なんでもあるがゆえに「まとまりがない」とか「アピールポイントがぼやけている」とか言われていたんですが、なんでもあるのを逆手にとって「サイクリング・ミックス・ツーリズム」ができると思いましたね。
他の県にはない茨城の魅力だと強く感じています。

▼河川敷のサイクリングとカヌー体験 「ペダル&パドル」

▼茨城県北部の林業地帯の山間サイクリング

日本一のサイクリング環境へ向けて

これほど資源が多くある地域は他にないと思っています。この自転車の環境にこだわりをもっていて、海、山などそういったサイクリング環境を大事にしていきたいです。
道だけでなく、広くとらえて、地域ごとの魅力をサイクリング環境に脚光をあてられるのが理想です。身近にあるも自然環境に光があたることを願っています。

また、茨城県で自転車を使った観光がさらに楽しめると思っています。

コロナ禍でイレギュラーな環境ですが、自転車は個人で楽しめるものだと思います。密を避けながら、健康管理ができ、心のリフレッシュのためにもサイクリングは良い道具です。私は、自転車に乗る習慣の少ない市民意識の転換を図る意図もあって、夏季限定の早朝ライドを企画実施しています。コロナ禍で楽しめる遊びの手段のひとつです。最近は、朝に自転車に乗ることが多く、例えば6時から90分ときめて毎週日曜集合し、行先を決めずに行っています。今は、自分なりに自転車を楽しんでいますが、今後コロナが収まったら、サイクリングミックスツーリズムメニューをどんどん提供していきたいと考えています。

▼早朝サイクリング 水戸朝ライド

▼鯉のぼりに思いを託しながら、日本一のサイクリング環境づくりを展望する根本さん

▼茨城県国際交流協会にてインタビュー

プロフィール

名前:根本博文(ねもとひろふみ)
1957年生まれ、茨城県水戸市出身

<略歴>
1981年4月、茨城県庁入庁
2012年4月、県庁企画部に所属。県域の地域振興政策に従事。そのひとつとして自転車政策を立ち上げ。
以降、公私におけるサイクリング関係のネットワークづくりに関与

2018年3月、茨城県庁退職
2018年4月、石岡市副市長就任
2020年5月、同上 退職
2021年8月現在、公益財団法人 茨城県国際交流協会 理事長、茨城県選挙管理委員、行方市自転車活用推進会議会長

仲間とともにサイクリングを楽しみながら、自動車依存率の高い茨城県民の日常生活に自転車活用を促進するため「水戸朝ライド」を主宰している。

<モットー>
どうせやるなら面白く

 

インタビュー・執筆:水越恭子

茨城県出身。地元ラジオ局でリポーターをしていた頃にロードバイクを購入。公私ともに自転車を楽しんでいる。現在はフリーランス。SNSで茨城サイクリングの魅力を発信。自転車のさまざまな楽しみ方を研究中!現在は、行方市自転車活用推進会議委員を務め、行方エリアテレビ「なめテレ」に出演し自転車で市内をめぐりレポートし放送している。

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