太平洋岸自転車道実走調査⑱ ルートミスを防ぐ技術
2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道を全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介していくシリーズ。今回は1,400kmをルートミスせずに走り切るためのテクニックを紹介する。ルートからそれて道に迷ってしまうことがないよう、矢羽根や路面標示の役割を知り、MAPの使い方などをマスターしておこう。
目次
ルート表示の三種の神器
太平洋岸自転車道のルート案内で頼りになるのが、矢羽根、路面表示、案内看板だ。この3つを確認しながら走ることになるのだが、まずはそれぞれの役割を確認していこう。この3つのサインの呼び方は、太平洋岸自転車道サイクリングマップ(以下サイクリングマップ)でも使われているもので、当連載でもそれを踏襲している。
路面のシンボルマークは案内看板といっしょに設置されることが多い
矢羽根
サイクリングマップでの正しい呼称は矢羽根型路面標示だが、当連載では矢羽根と略して呼称してきた。長さ150cm、幅75cmとサイズが定められた矢印型の路面表示で、自転車の通行位置を示すものとされている。
太平洋岸自転車道統一ルールにより、単路部(分岐などのない場所)での設置はおよそ100mに1カ所と定められている。また分岐部(交差点などで曲がる場所)手前200mからは50m間隔、50m手前からは路面標示を混ぜながら10m間隔で設置、また急カーブにおいても密に設置することになっている。しかし実際にはほかの表示同様ここまでの整備がされている場所はまだ少ない。
サイズや色、設置する間隔などが定められている
路面標示
太平洋岸自転車道の統一ロゴと方向指示の矢印を組み合わせた長さ120cm、幅40cmの路面ペイント。同じ路面標示の一種である矢羽根と区別して誘導サインと呼ばれることもある。分岐部の200mと40m手前に距離入りのサインが、分岐部直前には距離表示のないサインが設置されることになっている。
40m先で右折の分岐があることを示している
案内看板
路肩や歩道上に立っている縦45cm、横15cmの標識。次の分岐までの距離を表すものと、次のサイクルステーションまでの距離を表示するものの2種類がある。
分岐を表す看板は、分岐部では200m手前と分岐直前、直後に現れ、誘導サインとともにルートの方向を指示する。
またサイクルステーションなど主要施設までの距離を表すものは、5kmに1カ所設置され、次の施設の名称とそこまでの距離が日本語と英語で表示されている。また施設に差し掛かったところにも設置され、これにはその施設の名前だけが表示される。
ちなみにこの案内看板に出てくる、施設名の前に記されたアルファベットと数字の組み合わせは、主要地点番号と呼ばれ、県名の頭文字(千葉ならC、神奈川ならK)と、その県内で千葉側から順に設定された番号(最初の施設が01、次が02)からなっていて、サイクリングマップの表記とリンクしている。
分岐を表す案内看板。千葉県の案内看板はチーバくんの図案入り
サイクルステーションなど次の施設までの距離を示す案内看板
そのほかルート上に見られる表示
そのほか目にする表示は太平洋岸自転車道の統一ロゴと、ナショナルサイクルルート・ロゴマークがある。
路面標示と組み合わされたナショナルサイクルルート・ロゴ
太平洋岸自転車道統一ロゴ
太平洋の波を青海波(せいがいは)としてデザイン。太平洋岸自転車道が6県にまたがることから波の数も6つだ。自転車のシルエットとともに、太平洋岸を走るサイクリングロードのイメージがわかりやすく表現されている。一般公募により横浜美術大学の学生によるデザインが選ばれた。
路面標示される場合は5kmに1カ所の割合で設置するとされている。
路面に表示する場合の直径は60cmと定められている
ナショナルサイクルルート・ロゴ
こちらは現在国内で6ルートが指定されているナショナルサイクルルートのシンボルマーク。自転車と日の丸、漢字の「和」を組み合わせてデザインされていて、「和」は「輪」ともかけられている。このロゴは路面標示として太平洋岸自転車道統一ロゴといっしょに設置されていることがほとんどだ。
こちらは1辺が60cmの正方形
矢羽根を頼りに走ってはいけない
まだ整備が完全に終わっていない太平洋岸自転車道では、矢羽根や路面表示が設置されていない部分もある。だから路面のサインや案内看板だけを頼りに走っていると、思わぬ落とし穴がある。ここでは、走っていて出合った要注意項目を紹介する。
分岐の手前に路面標示がない
矢羽根を頼りに走っていて、T字路などの分岐に差し掛かり、どっちに進んでいいのか迷ってしまうことがある。これは分岐の手前にあるべき路面標示が未整備である場合に起こりがち。案内看板があってもそれを見落としたような場合にも起こりうる。そんな場合は交差点(分岐)の中に入って左右を見渡すと、その先の矢羽根を発見できるはず。
神奈川県の例。分岐(交差点)直前に路面表示などの方向指示がない
矢羽根と路面標示の方向が違う
実際に走っていて何箇所かあったのが、たとえば矢羽根は左へ、路面標示は右へ、というようなパターン。これは、その分岐にある矢羽根が、太平洋岸自転車道を走る人に向けて設置されたものではないことに起因している。
太平洋岸自転車道の水先案内である矢羽根は、全国的に統一された自転車の走行空間を示す矢羽根型路面標示と同じ色とサイズ。そのためとくに都市部において混乱が生じているのだ。つまり都市交通整備として自転車の走行空間を示すために設置された矢羽根と、太平洋岸自転車道の矢羽根が混在していて、太平洋岸自転車道の利用者にはわかりにくい場合がある。
そのため都市交通整備として設置された矢羽根の方向を頼りに走ると、ルートミスする場合がある。走るときは矢羽根ではなく路面標示や案内看板に注意しながら走るのが鉄則だ。
静岡県の例。矢羽根は右へ、路面標示は左へ
矢羽根が消えた
それまで続いていた矢羽根が消えてしまった場合。まずは路面標示や案内看板の見落としによるルートミスを疑うべきだが、そうではない場合もある。
大規模自転車道などの自転車歩行者専用道(いわゆるサイクリングロード)では、路面標示などの設置が後回しになっている。これは、すでに整備され供用されている自転車歩行者専用道は道に迷う可能性も少ないことから、ほかの一般道部分を重点的に整備しているために起こっている現象。また自転車歩行者専用道では自転車の走行空間を示す必要がないことから、基本的に矢羽根は設置されていない(一部例外あり)。なので自転車歩行者専用道を走りながらなんとなく不安になる、ということが起こりがちなのだ。
車道の舗装をやり変えた後、まだ路側帯や横断歩道などの表示がされていない、というケースもある。この場合当然矢羽根や路面標示も上書きされておらず、「矢羽根が消えた」となる。
静岡県。自転車歩行者専用道に入ると矢羽根がなくなり、不安になることも
千葉県には自転車歩行者専用道に矢羽根がある場所も。かなりレアだ
交差点内に路面標示がある
ふつうは交差点(分岐)の手前に路面標示があり、右左折を指示されるのだが、交差点の中に右折表示があって慌てることがあった。2段階右折を指示したものと思われるが、わかりにくい。
静岡県内。右へのT字路交差点。直進の表示がある
ところがその交差点を抜ける手前に右折の指示が
オフィシャルの地図を活用しよう
矢羽根や路面標示だけを頼りに走るのはルートミスを誘う。なのでしっかりルートを地図で確認して走ることが必要になってくる。太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会が提供している太平洋岸自転車道の地図には大きく分けて3種類がある。それぞれをうまく使い分けて快適にルートをたどろう。
①グーグルのマイマップで作られたMAP
太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会による太平洋岸自転車道HP(https://www.kkr.mlit.go.jp/road/pcr/index.html)から、サイクリングマップがダウンロードできる。
①上に並んだタブから「アクセス・ルートマップ」を選んでクリック
出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)
②「Google Map」の表示の下に並んだ県名から、必要なエリアのタブを選ぶ(全体での表示も可能)
ゲートウェイやサイクルステーション、サイクリストにやさしい宿などのアイコンが表示されたMAPは、見たい場所を拡大できるので便利。ただしこのMAPは全体と各県で、同じように見えてもルートが一部異なっているので注意が必要だ。各県のもののほうが修正が新しいようだ。
またこのMAPと実際の路面標示が異なる場合もあり、これまでの連載で指摘してあるので参照してほしい。
この地図のことを当連載ではMAPと呼称している。
全体版には全ルートの情報が表示される
各県版にはその県の情報しか表示されない
通常のグーグルマップように拡大できるのでコース詳細を確認するのに便利だ
②ルートパンフレット(データ版)
この連載ではサイクリングマップと呼んでいるのがこれ。先ほどの太平洋岸自転車道HPの「アクセス・ルートマップ」ページを下にスクロールすると「ルートパンフレット」という項目があり、そこから各県別のサイクリングマップがダウンロードできる。
大きくエリア分けした「千葉県・神奈川県版」「静岡県・愛知県版」「三重県・和歌山県版」と、各県詳細版がある。各県詳細版は県によって複数エリアに分かれていて、全部で15のサイクリングマップを用意。
すべて表面は太平洋岸自転車道全体のインフォメーションとサイクリングマップのエリア区分を表示。裏面はそのエリアの詳細情報が記されている。事前にスケジュールを立てるときはもちろん、これをスマホにダウンロードしておけば、休憩中にこれからのルートなどを確認するときに、さっと見られるので便利だ。
必要なエリアのボタンをクリックするとこのような画面に。右上のダンロードボタンで保存する
表面はすべて共通でエリア区分などを表示
裏面はそのエリアの詳細情報を盛り込む
ただしこのサイクリングマップの制作は2020年12月。情報が古くなっている場合もあるので注意が必要だ。細かいルートの確認は①のMAPでして、周辺の情報などをこのルートパンフレットで入手するという使い分けがいいだろう。
③ルートパンフレット(紙版)
②のルートパンフレットの紙版もある。内容はまったく同じで、雨にも強い紙で作られている。サイズはA2で両面印刷。一部エリアを走る場合は、これをバックポケットに入れておけば、さっと取り出せて便利。
この紙版はゲートウェイやサイクルステーションで無料配布されているが、置かれているのはそのエリアのものだけで、全部を一度に入手するのは難しい。各地のサイクリング関連イベントに国土交通省(ナショナルサイクルルート)のブースが出展されていれば、そこでまとめて入手することができる可能性があるので要チェックだ。
雨や汗に強い素材でできているので、バックポケットにそのまま入れておける
MAPに自分の位置を表示させる方法
HPのMAPは拡大して詳細が確認できるのでいいのだが、自分の位置が表示されない。このMAPのなかで自分の位置を表示できたらすごく便利。うれしいことに、この国土交通省の太平洋岸自転車道HPからはルートのKMLデータがダウンロードできる。そこでこのルートデータを自分で作ったグーグルマイマップにインストールして、自分の位置を表示させることができる。
HPからKLMデータをダウンロードする
先ほどの太平洋岸自転車道HPの「アクセス・ルートマップ」に入り、下にスクロールすると「ルートデータ(KLMファイル)ダウンロード」が出てくる。各県別に分かれているので、必要な県のボタンをクリック。
ダイアログが出てくるので「保存」をクリックするとデスクトップ上にKMLデータが保存される。次に自分のグーグルアカウントにログインしてからグーグルマップを開く。マイマップは各アカウント別に保存されるので、複数のアカウントを持っている人は、保存したいアカウントでログインする。
以降はマイマップを開いて、画面左上から「保存済み→マイマップ」と進み、いちばん下にある「地図を作成」をクリック。左上の「インポート」をクリック。そこにダイアログが出てくるので、そこにデスクトップに保存されたKMLファイルをドラッグアンドドロップする。これでファイルが保存できる。
詳細は「グーグルマイマップ KMLデータ インポート」などで検索して方法を調べてほしい。
自分の位置を確認する
このMAPを位置情報をONにしてあるスマホに表示させると、自分の位置をルートとともに確認できる。同じアカウントでログインすることを忘れずに。違うアカウントでログインすると、先ほど作ったマイマップが表示されない。スマホのグーグルマップ画面から下にある「保存済み」をタップ。下の方にある「マイマップ」から先ほどのMAP名をタップ。これで制作したマイマップ上に自分の位置が表示されるようになった。
※ただしこの方法だと自分の位置を中心に自動的に地図がスクロールしていくような使い方はできない。
休憩や信号待ち、迷いそうな場所で自分がコースから外れていないかと確認するような使い方に向いている。
自分の位置を中心にスクロールするナビゲーション的な使い方は、グーグルのマイマップではなくガーミンやストラバなど別アプリで可能だと思うので、そちらにトライしてほしい。
実際にどうやって走ったか
では実際にどのようにルートを確認しながら走るか。じつは岩田は走破の前半(浜松まで)は、マイマップにKMLデータを落としていなかった。そのためルートを見失ったときにはまずスマホのグーグルマップで自分の位置を確認し、それから画面を切り替えて太平洋岸自転車道HPのMAPを見比べながら自分がコースのどこにいるのかをチェックしていた。これだと時間がかかり正確な位置が瞬時にわからない。
そこで後半はここまでに紹介した方法で、マイマップをチェックしながら走った。これによって見る地図がひとつですみ、時間が節約できた。
後半はMAPを表示させたスマホをハンドルに装着してみたが、あまり使い勝手はよくなかった
おかしいなと思ったらすぐにMAPチェック
矢羽根が消えたら、ルートミスを疑うのは鉄則だが、矢羽根だけではなく、路面標示や案内看板をチェックしながら走る。少しでもおかしいなと感じたら、自分の位置をMAPで確かめ、コースから外れていないかチェックする。結局はこの繰り返しがルートミスを防ぐ方法だ。
事前におおまかなルートをチェックして、間違いやすい場所などを頭に入れておくことも大切。たとえば伊豆半島を回るルートなどは、基本的に海岸沿いなので間違えてもほとんど問題ない。また愛知県の渥美半島のように国道からそれて自転車歩行者専用道がある場合、そのまま国道を走ってしまっても方向さえ間違えなければ問題ない。静岡県の清水市内などはごちゃごちゃした市街地の自転車歩行者専用道をたどるより、国道を抜けたほうがはるかにスムーズだ。
要は太平洋岸自転車道を寸分違わずトレースしようとするのでないかぎり、多少ルートを間違えてもあらぬ方向に走ってしまわなければオーケーだということ。そんなふうにおおらかに考えて太平洋岸自転車道を楽しんで走ってほしい。
次回は太平洋岸自転車道なにコレ珍百景&おもしろ新名所!
執筆:岩田淳雄
愛知県出身、千葉県在住。 |