太平洋岸自転車道実走調査⑧静岡県:沼津から湖西までの道路状況や走行ポイントを解説
2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道の全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介するシリーズ。今回は静岡県の後半、沼津から浜名湖の先、湖西までの解説編。
DATA
沼津→湖西(愛知県との県境)
距離:225.4km、獲得標高:416m、最大標高:118m
目次
ルート概要
焼津市手前で大きく迂回する箇所が
静岡県を通るルートは441.3kmと長いため、伊豆半島部分とそれ以降の部分の2つに分けて紹介している。この静岡県後半パートは、沼津を出て富士川、安倍川、大井川、天竜川といった一級河川を渡りながら、浜名湖の先、湖西市の愛知県との県境まで走るダイナミックなルート。
昭和の時代に整備された自転車歩行者道、いわゆるサイクリングロードを走る区間が長いのも特徴だ。
三保松原で有名な清水市の三保半島で寄り道する以外は、海岸線を一路浜名湖まで目指すイメージ。だが焼津市手前では海岸線からそれて内陸をルートとした部分があり、距離的にかなりの大回りを余儀なくされるので、スケジュールを組む際には余裕をもちたい。
静岡県の交通基盤部道路局によると、この「迂回」ルートに関しては昭和40年代に太平洋岸自転車道が整備されたとき、海沿いに焼津に入るルートは「大崩」という危険をともなう箇所があるためルートが山側に設定され、それが現在も踏襲されているのではないかということだ。現在も丸子川、朝比奈川に沿って静岡御前崎自転車道として自転車歩行者専用道が整備され、それが太平洋岸自転車道となっている。静岡県内の自転車歩行者専用道(サイクリング ロード)の情報はこちらからPDFをダウンロードできる。
長期の工事で迂回させられる箇所も
御前崎から浜松までの「浜松御前崎自転車道線」では、長期にわたり自転車歩行者専用道が工事で通行不能となっていて、長い迂回を強いられる。
街をつないで走っていくため、コンビニやスーパーはコース沿いに多くある。ただがこの浜松御前崎自転車道線の迂回路となっている部分は、自販機を見つけるのにも苦労することがあるので注意。
富士川を渡るところで国道1号を走る部分もあるが、歩道を走るため危険ではない。ほかはうまく交通量の少ない道をつないだルートとなっていて、クルマの多さに危険を感じる場面は少ない。
またルートが分岐するのは牧之原市内の国道150号が走る新坂口谷川橋たもと部分、および道の駅潮見坂付近の短い区間のみ。
出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)
ルート高低差
標高160mの峠がひとつあるだけ
焼津手前でルートは海沿いを離れ内陸部へ。丸子川の堤防をたどって国道1号に合流、その側道を走ると国道1号宇津谷トンネル。これを避ける形で旧道に誘導されると宇津谷隧道で峠を越える。ここがこのルートの最高地点で、高低差図によれば標高118m(グーグルマップの等高線によれば標高160m)。あとはルートの最後、愛知県との境にある「道の駅潮見坂」の先で短い激坂が登場するだけ。ほかはほぼフラットで、脚力に自信がない人でも走りやすいコースだ。
出典:国土交通省 関東地方整備局
道路状況
砂が堆積した場合の連絡先を明記した看板が
ルートが階段を通る場所、歩道橋を渡る部分、道の駅の中を通過する部分、さらには銚子へ向かうルートと和歌山へ向かうルートが狭い歩道を対面通行する部分など、話題ポイント満載の静岡県西部。
大井川を渡った吉田町から牧之原市相良までは一部をのぞき旧静岡鉄道駿遠線の軌道跡を通るなど、快適なサイクリングが楽しめる。
砂浜沿いを走る浜松御前崎自転車道線は砂の堆積が多い部分だが、現在は工事による迂回ルートが多いせいか、一部をのぞき走行の妨げになる場所は見られなかった。また砂のたまりやすい部分には県の土木事務所により「砂がたまって通りにくい場合は下記にご連絡ください」という看板が出されており、必要に応じて砂の撤去が行われている。
このエリアは全般に安全を優先したルートどりのせいか、車道ではなく歩道を走らせる部分が多く、走行には歩行者や対向の自転車に対する注意が必要。
大井川を渡ると階段自転車道に(MAP⑦)
富士市内の国道1号にある道の駅富士。ルートはこの敷地内を通る(MAP③)
この歩道が太平洋岸自転車道。しかも対面通行
砂が堆積した場合の連絡先を明記した看板(MAP⑩)
旧静岡鉄道駿遠線の軌道跡が自転車歩行者道に。スピードは出せないが走りやすい(MAP⑧)
走行注意ポイント
クルマに気を遣う場面はほとんどない
ルートがうまく引かれていて、車の通行が多く路肩が狭い道路でヒヤヒヤしながら走る、という状況はない。ただそのせいで歩道を走る場面も多く、段差や路面が荒れている部分では注意が必要。また非常に細い歩道を無理やりルートに設定している部分では、歩行者優先を心がけたい。
歩道がある場所はとにかく歩道にルートが設定されている
ルート案内の状況
色と形が違う「変異矢羽根」が出現
このエリアは交通量の多い道を避けるため歩道や歩道橋、階段などを駆使して複雑なルートを通らせる部分も多い。しかし案内表示はしっかりしていて、迷う部分はあまりない。細い通路のような場所に表示がひしめいているのを見ると、行政関係者の苦労がしのばれるほど。
おもしろいのは静岡市清水区の蒲原駅を過ぎたあたりから、矢羽根の色が薄いブルーに変わること。さらに同じ色で矢羽根の長さが短い「縮小型」の矢羽根も現れる。標準の矢羽根が幅750mm、高さ1500mmであるのに対し、縮小型は幅が同じで高さが600mmとかなり「薄い」。これは太平洋岸自転車道全ルートを通じてここだけに見られるもの。静岡市の道路保全課によると、縮小型は景観配慮と幅員の狭さに対応するため、この蒲原から由比にかけての旧東海道沿いに設置してあるそう。ただ色に関しては設置工事の時期によるものではないかということで、とくに意図はないということだ。
ちなみに標準型、縮小型とも、従来から交通安全目的で使用されているものもあるということで、太平洋岸自転車道専用ではない。事実、矢羽根は直進を示しているのに路面表示が左折を促すといった場所もあった。
標準型だが色が薄い。少し紫がかったような灰色っぽいような(MAP④)
縮小型。色はやはり薄い(MAP④)
矢羽根は右へ、路面表示は左へ。矢羽根の色の違いがよくわかる(MAP④)
迷いやすいポイント
矢羽根や路面表示に頼りすぎないこと
清水市の三保松原で海岸の防波堤沿いの道から羽衣東公園を抜けるところは、案内がないので道に迷いやすい。防波堤沿いの舗装路を突き当たりまで行くのではなく、手前の「自転車」という矢印に従って松林の中に入るのが正解。
そのほか筆者がルートミスしたのは富士市田子の浦港付近の右折。これまでにない右折の誘導方法にやられてしまった。藤枝市内の朝比奈川沿いや、大井川を渡った先の左折、天竜川の先の工事中箇所でも迷ったが、このあたりの詳細は次回の「実走編」に記す。
いすれにせよ矢羽根や路面表示に頼りすぎず、MAPを確認しながら進めばロストルートは防げるはずだ。
三保松原。防波堤の道からここを右に入る(MAP⑥)
田子の浦港付近のこの交差点、直進の路面表示があるが、じつは右折だ(MAP①)
迂回路情報
長期にわたる通行止め区間がある
御前崎から浜松までの「浜松御前崎自転車道線」には、長らく工事で通行止めの区間がある。趣のあるルートだけにもったいない。延々と迂回路を走ることになるが、その迂回路の案内はしっかりしていて、迷うことはない。本来ならば海岸沿いの松林や防波堤上を通るルートなのだが、MAP上ではすでに迂回路がルートとして案内されている。それほど通行止めが長期化しているということだろう。詳細はこちら(PDF)。
とにかく工事による迂回が多い(MAP⑬)(MAP⑭)
本来の自転車歩行者道方向ではなく、迂回路方面に路面表示が!(MAP⑪)
延々と迂回路を走ることになるが、案内はしっかりしている(MAP⑫)
観光&ビューポイント
富士山を見ながら走りたい
ルート沿いには旧東海道の街並み、三保の松原、御前埼灯台、浜名湖など、有名観光地が目白押しだ。しかしサイクリストにとっては、なんといっても富士山を間近に見られる沼津市や富士市からの眺望がうれしい。伊豆半島から見えていた富士山がだんだん大きくなってくるのは、走りながらわくわくする。しかし富士市を過ぎると富士山は背後にまわるので、あまり楽しむことはできない。そして清水市を過ぎると、富士山はどんどん小さくなっていく。
御前崎市の御前崎周辺、袋井市の浅羽海岸付近などは海岸沿いに雄大な太平洋を眺めながら走ることができ、これぞ太平洋岸自転車道!という爽快さを満喫できる。
ちなみに太平洋岸自転車道サイクリストとして気になる、ルートの中間地点の杭が、磐田市内の浜松御前崎自転車道線に設置されている。取材時は迂回指定場所だったため立ち寄れなかったが、詳細はこちら(PDF)。
富士市田子の浦港付近からの富士山(MAP②)
清水市の三保松原からの富士山。もうかなり小さい(MAP⑤)
御前崎風力発電所の風車を右手に。快適なシーサイドライドを楽しめる(MAP⑨)
次回は沼津から湖西までの実走レポート編
執筆:岩田淳雄
愛知県出身、千葉県在住。 |