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太平洋岸自転車道実走調査⑥静岡県:熱海から沼津までの道路状況や走行ポイントを解説

2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道の全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介するシリーズ。今回はルート3番目の県である静岡県の、熱海から沼津までの解説編。

DATA
熱海(神奈川県との県境)→沼津
距離:215.9km、獲得標高:3660m、最大標高:272m

ルート概要

伊豆半島をまわるルートとショートカットルートがある

神奈川県の湯河原町から千歳橋を渡ると静岡県の始まりだ。静岡県を通るルートは441.3kmと長いため、伊豆半島部分とそれ以降の大平洋沿岸部分の2つに分けて紹介していく。じつは太平洋岸自転車道の伊豆エリアには、伊豆半島をぐるっとまわる海沿いルートと、伊東市の宇佐美から伊豆半島の根元をショートカットして伊豆の国市の江間で海沿いルートと合流する山越えルートの2つがある。

分岐から合流まで、海沿いルートが約181kmあるのに対し、山越えルートはわずか約23km。どちらのルートを行くかで距離が大きく変わってくる。標高446mの亀石峠を越える山越えルートは厳しいが獲得標高は約500m。対して海沿いルートには亀石峠ほどの大きな峠はないものの、連続するアップダウンにより、獲得標高は3000mを超える。距離と獲得標高でいえば、海沿いルートのほうが厳しいと言わざるをえない。

ただひとつの峠としては、亀石峠が太平洋岸自転車道で最大の峠になり、ここが太平洋岸自転車道全ルートを通じての最高地点となる。

東海岸にくらべ西海岸は交通量が少ない

今回実走したのは海沿いルート。伊豆半島の東海岸は交通量が多く路肩も狭い。さらに危険なトンネルも多く、走行には十分な安全対策と注意が必要。また西海岸は交通量はぐっと少なくなり走りやすいが、大きめのアップダウンが続く。また西海岸はコンビニや食事ができる場所が限られるためルート上の町までの距離をしっかり頭に入れて走行したい。

また伊豆半島の西の付け根、沼津市の口野放水路交差点から海岸線ではなくいったん伊豆の国市に入りショートカットルートと合流し、狩野川に沿うように沼津市街を目指すルートは、かなりの大回りを余儀なくされる部分だ。静岡県沼津河川国道事務所によれば、まっすぐに国道414号経由でルート設定しなかったのは、国道の道幅が狭く交通量が多いこと、狩野川の景観を楽しんでほしいことなどの理由からだそうだ。

なおMAPを見ると熱海市街など海岸沿いに3カ所、亀石峠までにも1カ所、あと沼津市街に1カ所、上下線でルートが分かれる部分があるが、どれも一方通行によるもの。


出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)

ルート高低差

アップダウンの厳しい難ルート

アップダウンを繰り返しながら伊豆半島をまわる海沿いルートは、太平洋岸自転車道でもっとも厳しい。日本全国でみても有数の難路だと言っていいだろう。
獲得標高は3000mを超え、イメージとしてはつねに上りか下りで、フラット部分は市街地や漁港を通過する部分のみ。熱海市から伊東市、下田市を抜けて石廊崎にかけての東海岸側は、大きな峠はないものの、つねに細かいアップダウンを繰り返す。
石廊崎から松崎町をへて伊豆市土肥、沼津市へ至る西海岸は、松崎町手前の石部あたりに250mほどのアップ、さらに土肥と戸田の間にも厳しい上りが待ち受けている。ほかにも150m程度の上りがいくつもあり、脚にこたえる。

ちなみに下に掲載している高低差図は、左側の標高のスケールが異なっているので、参考にする際には注意が必要だ。おおまかに言うと①が東海岸、②が西海岸、③がショートカットルートの高低差だ。

出典:国土交通省 関東地方整備局

道路状況

伊豆半島はほとんど一般道を通る

伊豆半島をまわるルートには、沼津市街の狩野川沿いをのぞき、ほかのエリアにあるような自転車歩行者専用道、いわゆるサイクリングロードは見られない。

伊豆半島の東海岸は、神奈川県から続く国道135号で下田市まで、そこからは国道136号に西海岸を伊豆市土肥まで。そこからは県道17号で沼津まで、というのがおおまかなルート。伊東市の川奈から城ヶ崎海岸のあたり、それと半島最南端の石廊崎付近は国道をそれて県道へ。だが、どこもエリアの主要ルートとなっているため、路面状態はおおむね良好。
また無理やり歩道を走らせたり、歩道橋を渡るような場所は見られないが、トンネルが多いのがこのルートの特徴で、上りの先にはトンネルが現れる場合が多い。


とくに東海岸はトンネルが多い(MAP①)


石廊崎手前の県道16号。快適なシーサイドルートだ(MAP⑥)

走行注意ポイント

伊豆半島東海岸のトンネルは慎重に

とにかくトンネルの通過に注意が必要だ。とくに伊豆半島東海岸の熱海から下田にかけては交通量が多く、片道1車線でトンネルでなくても路肩が狭い。
対向車がなければクルマも自転車を避けて追い抜いてくれるものの、対向車がある場合は自転車のすぐ横すれすれを抜いていくので危険きわまりない。信号の関係でまとまってクルマが通過するので、トンネル手前で停車し、クルマが来ないタイミングを見計ってトンネルに突入することになる。
ここでの危険を考えると、亀石峠を越えるショートカットルートを選ぶほうが賢明かもしれない。


路肩が狭く、交通量の多いトンネル通過には細心の注意が必要(MAP⑤)


クルマが来ないタイミングで突入するしかない(MAP②)

ルート案内の状況

伊豆半島の矢羽根はミニサイズ

ルートが基本的に半島周回の主要道であるせいか、距離のわりに分岐はそれほど多くなく、一部をのぞきルート案内に不足は感じられない。神奈川県内で見かけた、分岐の手前に方向の指示がないようなケースも見当たらなかった。

例外は沼津市街。太平洋岸自転車道の矢羽根と、従来から設置されていた自転車レーン(?)用の矢羽根が入り乱れ、どこがルートなのか混乱する場面も。これはこの後のルートでも市街地などでしばしば現れる状況。怪しいなと感じたら、MAPと照らし合わせて確認するしかない。

また伊豆半島ではサイズの小さい「ミニ矢羽根」が出現する。標準のサイズである幅750mm、長さ1500mmに対し、面積で4分の1程度の大きさ。これは沼津市に入り、亀石峠越えのショートカットルートと合流するまで続く。静岡県沼津河川国道事務所によれば、伊豆半島部分の矢羽根は太平洋岸自転車道の矢羽根の規格が決まる前に設置されたため、独自規格のミニサイズになっているそう。今後新たに設置したり補修したりする場合も、統一規格ではなく現在の大きさになるということだ。


沼津市街。直進方向がルートだが、路面には矢羽根が入り乱れる(MAP⑧)


上が規定の矢羽根サイズ。下が伊豆半島のミニサイズ。路側帯の幅で比較すると、そのサイズの違いがわかる。伊豆半島をまわるルートすべてでこのミニ矢羽根が敷設されている


路面表示と比較しても明らかに小さいのがわかる

迷いやすいポイント

沼津市街でのロストルートに注意

県道139号で狩野川に沿って沼津市街にアプローチしていくと、県道を右折して狩野川サイクリングロードに出る交差点には、矢羽根や路面表示による方向指示がなく、そのまま直進してしまいがち。
よく見ると案内看板はあるが、これを見落とすといつしか矢羽根がなくなり、ルートから外れてしまう。困ったことに矢羽根は直進しているので、それにつられてまっすぐ走ってしまいがちなのだ。つまりこの矢羽根は太平洋岸自転車道の矢羽根ではないということ。

また狩野川サイクリングロードには太平洋岸自転車道の案内看板や路面表示がほとんどなく不安になる。これも「サイクリングロードあるある」なので、そういうものだと思うしかない。従来より自転車歩行者専用道として供用されてきた部分は、すでに整備済みということで新たな案内看板や路面表示の設置が後回しになっているのだろう。


高い位置にある案内看板。この手前に右折の指示はない。しかも矢羽根は直進している(MAP⑨)


狩野川サイクリングロードには矢羽根や案内看板がない(MAP⑩)

観光&ビューポイント

有名な温泉地がたくさんある

伊豆半島東海岸には、熱海、伊東、熱川など有名な温泉地がずらりと並ぶ。また西海岸の松崎、土肥、戸田なども温泉自慢だ。
伊豆に来たからには温泉宿に泊まって、ゆっくり疲れを癒したい。ペリー艦隊が来航した下田や、ルートから少し足を延ばすことになるが、伊豆半島最南端の石廊崎、沼津市の大瀬崎なども立ち寄りたいポイント。
下田市の伊豆白浜海岸、松崎町の「なまこ壁」などもルート上にあり立ち寄りやすい。有名選手が立ち寄ることで有名な沼津市のサイクルカフェ「チェレステカフェ」もルートに面している。


伊豆といえば温泉。この看板は大きくてインパクト抜群


伊豆白浜海岸。太平洋岸自転車道沿いには房総半島の安房白浜、伊豆半島の伊豆白浜、紀伊半島の白浜と3つの「白浜」がある(MAP③)


公園として整備された下田市の海岸(MAP④)


松崎のなまこ壁。ルートから入った路地にある(MAP⑦)



沼津のサイクルスポット、チェレステカフェ。今はハンバーガーカフェに

次回は静岡県、熱海から沼津までの実走レポート編


執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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