【静岡県】大河ドラマで再注目。家康ゆかりの寺と城、町並みを巡る39kmのサイクリング
静岡県袋井市には、遠州(旧遠江国)三山として知られる萬松山可睡斎(ばんしょうざんかすいさい)・医王山油山寺(いおうさんゆさんじ)・法多山尊永寺(はったさんそんえいじ)という3つの寺があります。
この3寺を巡りつつ徳川家康の家臣、大須賀康高(おおすがやすたか)が築いた横須賀城の城下町として栄えた横須賀の町並みにまで足を延ばすコースを紹介しましょう。
NHKで放映中の大河ドラマ「どうする家康」ゆかりの地も多く、見どころには事欠きません。さらに巡る道の先々では、新緑に萌える茶畑も待っています。
目次
袋井宿近くの駅を起点に、まずは可睡斎へ
起点となるのは東海道の真ん中の宿(江戸から数えても京から数えても27番目)として知られる袋井宿からほど近い、JR東海道本線の袋井駅。降り立った駅舎の壁にも大きく「どまん中通り 秋葉口」と記されています。
秋葉口というのは、関東にまで広がる秋葉信仰の信者が往来した秋葉街道の玄関口(の一つ)という意味で、旧街道をなぞって敷かれた県道275号を2.6kmほど北上し、可睡斎の道案内に従って分岐を右に進みます。
分岐から1.3kmの、門前に並ぶ茶屋の先が可睡斎。総門をくぐった先にある直営の売店、洗心閣の裏手にはサイクルラックがありました。
東京ドーム約10個分という広大な境内を、登って下って1時間
ちなみに可睡斎の名は、幼少期の家康を教えた僧を城に招き入れて昔話をしたところ僧が居眠りを始めたものの、その僧に家康が「睡る可し(ねむるべし)」と語りかけたことから名付けられました。
1873(明治6)年に秋葉寺から三尺坊大権現(さんじゃくぼうだいごんげん)が遷座すると火防の神として全国に名が伝わり、今は東京ドーム約10個分の境内に多くの堂宇を擁する大寺院となっています。
石段を登った先にあるのが、重厚な入母屋造りの本堂。
ここでお参りを済ませたら、その左手裏に控える御真殿に向かってまた石段を登りますが、その途中の両脇には天狗像、さらに御真殿内側の壁には数々の天狗面が掲げられています。
この天狗は一時下火となった秋葉信仰を、再び栄えさせた修験者(しゅげんじゃ)を神格化したものといわれています。
火の用心を誓った御真殿からさらに上を目指すと、三方ヶ原(みかたがはら)の戦いで武田勢に追われた家康が、隠れて命拾いしたと伝わる出世六の字穴が現れます。
内部は6の字の形状でぐるりと回れますが、今は奥まで入ることはできません。
ここから引き返す際に眼下を望むと、いくつもの堂宇がひしめくように立ち並び、まるで瓦の海のように感じることでしょう。
続いて、もう一つの山上にある護国塔にも足を延ばします。この塔は1911(明治44)年に日露戦争の戦死者の霊を祭るために建てられたもので、インドのガンダーラ様式を取り入れた円形ドームとなっています。
ただし、そこまでの道のりが曲者。ベルギーのワンデーレース、ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)最大の難所となるコッペンベルフもかくやという石畳の急坂となっているのです。
登りもさることながら、下りは足を滑らせないよう慎重に。ロード用のシューズで挑むのは絶対に避けましょう。
眼病に利益がある油山寺は、老眼の進行を止められるか?
可睡斎の境内を一巡するだけで1時間ほど掛かりましたが、総門から北上する道を進むと次の油山寺までの距離は3kmと短く15分ほどで到着。
そこには頑丈なサイクルラックが設置されていました。油山寺の山門は、1873(明治6)年に廃城となった掛川城から寄進されたかつての大手門。その門をくぐった先の道は驥山門(きざんもん)の手前で二手に分かれますから、まずは右に向かって方丈や書院などを訪ねます。
奥にある宝生殿の扁額には、古銭を使って描かれた「め」の一文字。ここ油山寺は眼病に利益がある寺として有名です。
続いて左に向かうと山道の趣が感じられ、るりの滝を経て階段を登ると三重塔、そして秘仏である薬師如来を安置する本堂がありました。
境内の地図を眺めるとまだまだ見どころはありますが、可睡斎と同様にこの寺も登り下りが欠かせません。この先の行程に備えて脚力を温存。遠州三山の最後となる尊永寺は9km先となります。
法多山を訪ねたら、厄除団子がマスト
家康をはじめ歴代将軍の信仰を得て栄え、今も初詣を中心に多くの参詣客を迎える尊永寺。
地元では法多山の名で親しまれる寺の、門前にずらりと並んだ店の間を進みます。国指定重要文化財である仁王門にたどり着いたら、手前のサイクルラックに自転車を置くもよし、そのまま巨木が並ぶ境内を押し歩いてもかまいません(走行はNG)。
そして長い石段を登って本堂を拝んだら、案内に従って下る途中の茶屋へ。そこで供される一皿200円の厄除団子(やくよけだんご)は、参拝とセットと言っていいでしょう。
季節の茶畑を眺めつつ、横須賀城跡を目指す
茶どころとしても知られる静岡県。新緑に萌える茶畑が、行く先々に現れます。今がちょうど新茶のシーズンということで、摘み取りをする光景も見られるでしょう。
その茶畑の間を進む区間では、作業をする農家の人が優先です。仮に農機具が道を塞いでいても、道を空けてくれるまでおとなしく待ちましょう。
長坂トンネルを抜けて山裾を巻くように南下していくと、やがて横須賀城跡に到着。明治維新とともに廃城となったものの、今は国の指定文化財として整備が進められています。
城下町として栄え、古い家並みが残る遠州横須賀
この城の東側、城下町として栄えた遠州横須賀には、江戸の廻船問屋から明治の郵便局を経て今に至る旧清水家住宅、銘酒葵天下を醸す山中酒造など古い家並みが残っています。
そして、そのシンボルともいえる割烹旅館 八百甚(かっぽうりょかん やおじん)は今も営業を続けており、食事はもちろん宿泊も可能です。
掛川駅までの15kmには、侮れないアップダウンが続く
遠州横須賀を抜けたら、後はJRの東海道新幹線も停まる掛川駅に向かうばかりです。残り15kmほどの途中には標高170mを超えるピークが控え、勾配自体は緩いものの帰りの電車が予約済みだとちょっと焦るかもしれません。
このピークを越えた先にもアップダウンがありますし、左に分岐する旧道は、廃道に向かいつつあるように感じます。
それでも余裕があるという人は、ダムの貯水池に隣接する西大谷ダム公園や子隣の交差点を左折して300mにある明治期の煉瓦トンネル、檜坂隧道(ひのきざかずいどう)に寄り道するのがおすすめ。
袋井市に本社を置く県内限定のレストラン、さわやかで名物のハンバーグを食べてから帰路についてもいいでしょう。
コース紹介
アプローチは高速バスを利用してもOK
今回のコースは起点を東名袋井バス停、終点を東名掛川バス停とすることも可能です。輪行に詳しい人は、「バスに自転車を持ち込むことはできないのでは?」と思われたかもしれません。
たしかに鉄道と異なり、バスの多くは持ち込みができないものの、なんとJR東海パスのウェブサイトには「折りたたみ自転車について、昼行バスに限り専用ケースに入った状態で、他の荷物や床面を破損する恐れが無い場合にトランクルームへの収容が可能です。(当社運行便のみの取扱いとなります)」と記されており、「縦・横・高さの合計が250cmで、一辺の長さが最大で200cmであれば問題ありません」と記されています。
予約した高速バスネットから届いたメールには「自転車(折りたたみ式含む)……は積み込みできません」とあったため電話で確認したところ、「メールは高速バスを運行する各社で共通となるため、最大公約数の内容が記されている」との回答でした。
JR東海バスの昼行便は名古屋⇔新宿・東京、名古屋⇔大阪、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、名古屋⇔郡上八幡・高山、名古屋⇔福井、名古屋⇔金沢がありますから利用価値大です。
東京駅⇔掛川駅(東名掛川バス停)の運賃と所要時間の比較
鉄道(各駅停車) | 鉄道(新幹線・自由席) | 高速バス | |
運賃 | 4,070円 | 7,470円 | 3,630円 |
所要時間 | 約4時間 | 約1時間30分 | 約3時間30分(渋滞で遅れる場合も |
今回の記事で紹介したコースの詳細は以下でもご覧いただけます。
まとめ
本文の最後に記したように、このコースは最後にアップダウンが控えています。そのため脚力に自信がないという人は、掛川駅を起点に逆コースをたどるといいでしょう。
遠州三山それぞれの境内をどのように巡るかで、残り時間や疲労の度合いに応じた調整もできます。また、袋井〜掛川間を旧東海道に沿って走れば、周回コースとすることもできます。
執筆:澤田 裕
社会人になってからサイクルツーリングに目覚め、『Cycle Sports』(八重洲出版)の校正や取材・執筆を長年にわたって手掛けている。日本国内に留まらず、区間を分けて5年で達成した台湾一周など海外での自転車旅も経験。 |