太平洋岸自転車道実走調査⑭和歌山県:新宮から和歌山までの道路状況や走行ポイントを解説
2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道の全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介するシリーズ。今回はルート最終となる和歌山県部分の解説編。
DATA
新宮→和歌山(加太港)
距離:311km、獲得標高:3420m、最大標高:153m
目次
ルート概要
WAKAYAMA800の海沿いルートとほぼ重複するルート
全長311kmと、静岡県の441kmについで長い和歌山県のルート。
基本的には国道42号を海沿いにひたすら走るルートだが、太地町、串本町、白浜町・田辺市、美浜町から和歌山市などは国道から外れる部分がある。また白浜町と由良町の戸津井でダブルルートとなっている。
白浜町は半島部分をショートカットするルートと半島をまわるルート。ここは地元自治体のサイクリング施策との兼ね合いでこのような形になったという。
由良町は山側のルートが本来のルートだが、そこに海岸沿いのトンネルを通る平坦ルートをサブルートとして追加したということだ。今回実走したのは白浜半島をまわり、由良町ではトンネル側を走るルートで、上記DATAの距離や獲得標高もそのルートのものになっている。
「サイクリング王国」を標榜する和歌山県にはWAKAYAMA800という独自のサイクリング振興施策があり、その推奨ルートにブルーラインが引いてある。
しまなみ海道のように途切れずに続くものではなく、100mに1カ所、5mのラインを設置するのが基準。
太平洋岸自転車道のルートは基本的にはこのWAKAYAMA800のS-1という海沿いのコースと同じだが、太地町の森浦湾部分(湯川駅の少し南側)で違うルートをたどっている。これはWAKAYAMA800制定時にはまだ供用されていなかった自転車歩行者専用道が、ナショナルサイクルルート指定に向けて、太平洋岸自転車道を整備する時点で開通したので、そこを通ることにしたためだという。
基本的には太平洋岸自転車道とWAKAYAMA800のS-1コースは同じルートなので、一部をのぞきどちらの指示に従っても問題はない。互いに補完しあってサイクリストの安全快適な走行環境を提供しているといえる。WAKAYAM800に関してはこちらを参照。
出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)
ルート高低差
細かいアップダウンで獲得標高3000m超え
海岸線はアップダウンが多く、獲得標高は伊豆半島をまわる静岡東部に迫る3400m。
だがほとんどが標高差80m以下の小さな上り。最大の峠は由良町戸津井にある、トンネルを回避するダブルルートを過ぎて、衣奈漁港から先の県道23号・24号。
獲得標高150mで、勾配自体はそれほどではないものの、疲れた脚にはかなりこたえる。ここが和歌山県ルートの最高標高地点となる。だが勾配がいちばんキツいのは海南市の大崎漁港からの上りだろう。
勾配10%を超える阪が断続的に続き、サイクリストの心を折る。
もっとも区間を区切ってみてみると、いちばんハードなのはすさみ町から白浜町にかけて。トンネルに助けられる箇所もあるものの、次々に現れる坂に修行僧のように心を無にして立ち向かわなければならない。
そのほかルートを通じて全体的に細かいアップダウンが続くので、その総計が3400mという獲得標高になるのだ。
出典:国土交通省 関東地方整備局
道路状況
国道42号は田辺をすぎると交通量が増える
和歌山区間は全長300kmを超えるだけあり、サイクリングロードから地元の生活道路、都市部の国道バイパスまで、さまざまな道を通る。道路の幅や交通量なども場所により多様だ。
基本的には車道を走らせる設定になっていて、歩道を走る部分はほとんどない。
新宮市から太地町、すさみ町から田辺まではルートと並行して走る紀勢自動車道が無料区間となっているおかげで、国道42号の交通量は非常に少ない。
とくにすさみから白浜手前はあまりにクルマが通らないのでさびしくなるほど。逆に田辺をすぎると急にクルマが増える印象。
また自転車歩行者専用道は3カ所。太地町の県道802号太地新宮自転車道線はごく短い区間しか供用されていないが、最近整備された部分のため舗装などもきれい(詳細はこちら)。
白浜手前の県道801号白浜日置川自転車道線(MAP④)には一部通行止め区間があり、その部分は注意が必要だが、新しく整備された北側部分は路面も良好で快適。和歌山市の県道803号紀の川自転車道線(MAP⑫・紀の川サイクリングロード)はほんの一部を通るだけだ。
全然クルマが来ない、すさみ町先の国道42号
太地町手前の県道802号太地新宮自転車道線(MAP①)
県道801号白浜日置川自転車道線の新しく整備された部分(MAP⑦)
走行注意ポイント
和歌山市内の土入川大橋の路面ジョイントに注意
全体的に交通量が少ない部分が多いので事故の不安は少ない。トンネルもそこそこあるが、危険を感じるほど交通量が多く長いものはなかった。
ナショナルサイクルルートに指定された当初、下り階段の入り口に車止めや注意喚起看板などのない場所(通称:天国への階段。詳細は次回実走編で)があったが、利用者の指摘により早々に対策がなされた。
和歌山市内、紀の川サイクリングロードに入る手前にある土入川大橋は、2カ所ある路面の橋桁ジョイント部分にロードバイク用タイヤがはまり込み、パンクする危険性が高い。通過の際は歩道部分を通るなどしてトラブルを避けたい。
天国への階段(MAP⑥)
土入川大橋のジョイント部(MAP⑪)
ルート案内の状況
ゴールまでの距離入り路面表示
矢羽根と案内看板での誘導は他県と同じだが、やはり特徴はWAKAYAMA800の案内との共存。矢羽根とブルーラインが同時に現れる部分もあり、当初は太平洋岸自転車道とWAKAYAMA800がケンカしているようにも思えたが、やがてそれぞれがルート案内を補完し合っているのだと思えるようになった。
案内看板にはすべてWAKAYAMA800のシンボルマークが入る。このようなオリジナルアレンジはチーバくんがあしらわれた千葉県と、ここ和歌山県だけのものだ。
和歌山県の道路局によれば、WAKAYAMA800のほうが先に整備されたため、そこに太平洋岸自転車道の表示を足す方向で整備が進められたとのこと。
路面表示には、太平洋岸自転車道のシンボルマークに加えゴールの加太までの距離とWAKAYAMA800のルート名(S-1)が入っているものもあるが、これはあとから太平洋岸自転車道のマークが付け足されたものだ。
またこの距離表示は和歌山県独自のもので、距離がわかるのはサイクリストにとっても励みになる。またWAKAYAMA800が路面標示メインでルート誘導しているせいか、ほかの県よりも路面表示による誘導が多い印象だ。
矢羽根とブルーラインが同時に現れる
S-1というWAKAYAMA800のルート名と、ゴールの加太までの距離が入った路面標示。逆向きは新宮までの距離を表示。この小さい矢印はもともとWAKAYAMA800のもの
案内看板にWAKAYAMA800のシンボルマークが入る
迷いやすいポイント
自転車歩行者専用道の入り口がわかりずらい
白浜町の日置にある白浜日置川自転車道線の入り口は見落としがち。その手前の道に矢羽根などの案内がなく、信号を道なりに右折してしまうが、よく見ると左側に自転車歩行者専用道への入り口に続く路地がある。
和歌山市内のサンブリッジ先、和歌山湾に沿って北上する道は、亀ノ川を渡って最初の信号から名草大橋の手前まで防波堤上の道を行くが、MAPでは下の道を指示している。MAPと実際の状況との齟齬部分だが、指示に従って防波堤の道を行けば道に迷うことはない。
白浜日置川自転車道線。この自転車歩行者専用道への入り口は見落としがち(MAP③)
ここはMAPでは下の道路を走ることになっている(MAP⑩)
迂回路情報
自転車歩行者専用道で一部通行止め
白浜日置川自転車道線の道の駅志原海岸先の山間部が通行止めとなっていた。(2023年3月末に確認したがまだ通行止め)迂回路は国道42号となる。
自転車は入っていけそうだが、地権者が立ち入ることができるようにしてあるだけで、規制上は通行止めだ(MAP⑤)
観光&ビューポイント
観光スポットの多さではルート随一
太地町は捕鯨の町。町立のくじら博物館はじめ、クジラにまつわるスポットやモニュメントが多い。そして串本町の橋杭岩、潮岬、白浜町の三段壁、千畳敷、円月島など南紀熊野ジオパークのダイナミックな景観が楽しめる和歌山。
ほかにも田辺市の天神崎、由良町の白崎海岸、和歌山市のマリーナシティ、雑賀崎などなど、ルート上だけでも多くの景勝地を通る。ルート上の観光スポットの多さでは太平洋岸自転車道が走る全県のなかで群を抜いている。
そしてなんといっても太平洋岸自転車道のゴールとなる和歌山市加太港のモニュメント。ここが太平洋岸自転車道サイクリストにとって最も重要な撮影スポットなのは間違いない。
捕鯨の町、太地町
串本町の橋杭岩(MAP②)
本州最南端の潮岬
白浜町の千畳敷(MAP⑧)
加太の太平洋岸自転車道モニュメント
次回は新宮から和歌山までの実走レポート編
執筆:岩田淳雄
愛知県出身、千葉県在住。 |