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太平洋岸自転車道実走調査⑬三重県:鳥羽から紀宝町までのサイクリングレポート

2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道を全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介していくシリーズ。三重県ルート解説に続き、今回は鳥羽市で伊勢湾フェリーを下りてから和歌山県との県境、紀宝町までの実走レポート。

実走調査日:2022年11月16日〜18日

DATA
鳥羽(フェリー乗り場)→紀宝町(和歌山県境)
距離:201.9km、獲得標高:3055m、最大標高:410m


出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)

鳥羽から大王崎まで

鳥羽港でフェリーから下りるが、太平洋岸自転車道の案内はない。港から国道に出て左折すると、やっと最初の矢羽根が。聞くところによると最近、フェリーを下りたところの路面に矢羽根が設置されたという話だ。整備が進んでいくのはありがたい限りだ。

パールロードへと向かう。奥に見える麻生の浦大橋がパールロードの入り口だ。

パールロードはこんな感じの道がずっと続く。以前はドライブ向けの観光有料道路だったため、歩道はなく路肩も狭い。

鳥羽展望台(タイトルの写真)を経て、面白展望台(相差駐車場)へ。ここには24時間使える空気入れ(エアポンプ)が。すごい取り組みだ!と思ったが、ポンプや工具を貸し出せる有人のサイクルステーションが設定できないので、太平洋岸自転車道の要件を満たすためにやむなくこういう措置になった、というところか。

キャビネットの中にはエアゲージもついた空気入れが。

だが口金がMTBなどに使われるシュレーダーバルブ(米式)用。これではロードバイクのフレンチバルブ(仏式)には入れられない。フレンチ用のアダプターが付属していたのが、引きちぎられてなくなっていたようだ。少し空気圧が下がっていたので、ここでなんとか空気を入れようと試しているうちに逆に少し空気が抜けてしまった。

パールロードは伊豆半島と同じくらい厳しいと思って「押し」を覚悟していたが、筆者の脚でもなんとか押さずに走り切れた。
もちろん息ゼイゼイですが。パールロード終盤、志摩スペイン村が見えたが、こういうトコに寄って楽しむ時間的余裕はもちろんない。

パールロードから続く県道128号は直進するが、指示に従って左の側道へ。

が、分岐のところで先を見ると、右側の本線(?)のほうにも矢羽根が。でもこれはきっと太平洋岸自転車道とは関係ない矢羽根。もうこれくらいのことでは動じない。

その先の突き当たりを左折すると志摩半島方面、右折すると志摩市街。ここは志摩半島を制覇するべく左折。パールロードはずっと茶色の案内看板だった。

道の左側に「磯部大王自転車道」の案内図が。この自転車歩行者専用道は、近鉄志摩線の志摩磯部駅付近から大王町まで続き、スペイン村付近からは太平洋岸自転車道と少し離れて、しかし同じ方向を向いて延びている。
大王町手前で国道260号となり太平洋岸自転車道と重なるが、ここは自転車歩行者専用道ではなく自歩道(自転車通行可の歩道)として運用されている部分。走ったときは気づかなかったが、ストリートビューで確認してみると大王町に向かって右側に広い歩道が整備されていて、ここが磯部大王自転車道ということなのだ。自転車道の標識も確認できる。
もともと昭和の時代に太平洋岸自転車道の一部として整備された自転車歩行者専用道だ。しかしなぜか今回のナショナルサイクルルートにはなっていない。
三重県県土整備部によれば、この磯部大王自転車道はファミリー向けサイクリングを想定したルート設定のため、用途の違いからナショナルサイクルルートとしての太平洋岸自転車道にはならなかったのでは、ということだった。
昭和時代に太平洋岸で大規模自転車道として整備されながら、ナショナルサイクルルートにならなかった自転車道は、全ルート通じてこの磯部大王自転車道だけだ。悲劇のサイクリングロードと言っていいだろう。

大王崎から志摩半島まで

ルートから少しはずれると大王埼灯台がある。珍しく寄り道してしまった。灯台好きなのだ。

けっこう時間をかけて見てしまった。満足。

灯台からの眺め。

スタートである銚子の犬吠埼はじめ、太平洋岸自転車道のルート沿いには、「上れる灯台」が7つもある。

志摩半島へ。

橋から下を見ると、リアス式海岸の入り江ごとに漁船が停泊している。

愛知県に続き三重県でもこういう注意喚起看板が見られる。「急勾配注意」だが、そんなにスゴい勾配ではない。

志摩半島先端の御座港に到着。定期船乗り場という路面標示がある。

しかしそこには何もなかった。定期船はすでに廃止され、残っていた飲食店なども閉鎖されている。乗客の乗っていない路線バスが暇そうに出発時間を待っていた。

志摩半島は基本的に往復ルート。でもそれだとつまらないので、帰りは国道260号の旧道となる「ゆうやけパール街道」を走った。
個人的にはこっちのほうが生活感があってバイパスよりよかった。途中、自転車屋さんで気になっていた空気を入れてもらう。お金払いますと言ったら「いいよいいよ!」って。ありがとうございました!

志摩半島から紀伊長島まで

志摩市に戻って県道17号で大矢浜方面へ。

海に突き当たったところで左折すると浜島港。航路が廃止された定期船の行き先だった港だ。ここも小さな半島を往復するだけだが、使命感に駆られて行ってみる。

やはり「定期船乗り場」の路面標示があるだけでした。

案内看板の色が茶色だったり青色(標準)だったりする三重県だが、これのせいだったかと気づく。この表示を境に案内看板の色も変わる。でも路面表示はずっと青。謎。

南張トンネル。このあたりのトンネルには歩道がついている場合があるが、なぜか山側(和歌山に向かって反対車線)にあることが多い。

南伊勢町の慥柄(たしから)付近。こういう広い歩道がついた場所が多い。交通量は少ないが、迷わず歩道を走る。
三重県内のルートにはこういった広い歩道がところどころ見られる。もしやこれは太平洋岸自転車道として整備されたものか!?と思って三重県県土整備部に確認してみたが、どうも違うようだった。

サイクルステーションになっている河村端賢公園でまた「空気入れボックス」発見。

これはフレンチバルブに入れられるタイプ。

南伊勢町の神前湾。ちなみに太平洋岸をずっと西に向かって走るってことは左手(海側)が南になる。だからこんな逆光の写真が多くなってしまう。

南伊勢町棚橋で再び空気入れボックス発見。

紀勢南谷トンネル。やっぱり反対側に歩道がある。

紀伊長島から熊野まで

道の駅紀伊長島マンボウ近くのT字路。左折がルートだが手前に案内はない。もうこんなことでは驚かない。

マンボウ。

紀伊長島の赤羽川を渡ったところに国道の長島トンネルがあるが、ここは軽車両進入禁止。MAPのデータではこの国道がルートになっているが、路面標示は下の写真の歩道トンネルへ。
ちなみにグーグルのストリートビューで確認すると、国道トンネルの中にいったん設置した矢羽根を削った跡が確認できる。整備を進めるなかでいろいろと混乱があったようだ。

その歩道トンネルを出たところ。こちらから行くぶんには問題ないのだが、反対から来ると、画面右側から走ってくることになる。ここに左折の案内がないので左側を注視していないと直進してしまうかなと思う。

古里トンネル。トンネル前に注意を呼びかける看板が。だがこれは自転車に対して「クルマに注意しろ」と言っているもの。
大切なのはクルマに対して「自転車に注意しろ」と呼びかけることでは?

その古里トンネルには立派な歩行者トンネルがあるが、ここはルートではない。でも通る。

登録有形文化財に指定されている趣のあるトンネルだった。

紀北町の道瀬港。

橋の手前にも注意喚起の看板が。橋で路肩が狭くなるという注意だろうが、橋でない部分も狭い。だが交通量が少ないので危険な思いはしなかった。

紀北町市街をかすめてさらに国道42号を行く。ここで銚子川! スタートした千葉県の銚子に思いをはせる。思えば遠くへ来たもんだ。

尾鷲市を過ぎていよいよ紀伊半島でも随一の難所、熊野市手前のビッグヒルクライムへ。矢ノ川トンネルは路肩も狭いし2kmもあるしで泣きそうだが、クルマは少ない。

ヘロヘロになりながら路肩のスペースを走っていると路面にやはりフラフラした轍が何本も。こんなところを買い物のママチャリが走るわけはないので、これはサイクリストのものだろう。
みんな頑張って走ったんだな。

熊野から紀宝町まで

そしてついに熊野市へ! やったー! あとはダウンヒルだぜい。

みかんの里からまた少し上るが、さらにダウンヒル。熊野は山深い。

熊野市の名勝、鬼ヶ城にやってきた。その入口を左に見る交差点。国道は直進だが、その先のトンネルは自転車通行禁止。ルートは歩道から歩道橋を渡り、歩道トンネルを行く。

で、そこに至る案内がすばらしい。なんでも自転車がここをまっすぐトンネルに入ってしまい、クルマと接触しての死亡事故があったそうで、命を守るという気迫が感じられる案内になっている。

まずはその交差点、絶対にまっすぐ行ってはいけないと、連続矢羽根で左の道へ誘導。

そしてその連続矢羽根の先頭部分で横断歩道を渡らせる。

そしてその先、矢羽根は歩道へ上がる。

さらに矢羽根は脇目もふらず歩道橋へ。


この先も太平洋岸自転車道全ルートを通じて1、2を争うユニーク箇所。
ルートは右側の細い歩道を行くのだが、対向は車道で当然左側通行。和歌山方向は歩道、銚子方向は車道で同じ側を走るのだ。

そしてその先で熊野名物、変形矢羽根出現。ルートはぐいっと曲がって左側の車道へ。ここで反対方向のルートと交差する。

そしてトンネルに向かうのだが入り口手前で再びトンネルの右側にある歩道へ誘導。再び変形矢羽根発動!

この狭い歩道を対面通行。

サイクリストの安全を優先して禁断の変形矢羽根を考案、このアクロバティックな誘導を実現させた国土交通省紀勢国道事務所 熊野維持出張所の阪井宣行さんと。フェイスブックで発信しながら走っていたので、それを見て待っていてくれた。

熊野歩道トンネルを抜けた先。何ということのない場所だが、妙に雰囲気がよくて印象に残った。

熊野市街を抜ける。

紀宝町から和歌山県境まで

ここからはひたすら海沿いの国道42号を走る。七里御浜ふれあいビーチはここだけカリフォルニアみたいだ。

紀宝町に入るとすぐの道の駅紀宝町ウミガメ公園。

これはウミガメではなくリクガメ。

道の駅の「駅長」、石本慶紀さんが迎えてくれた。ここはウミガメと触れ合えるだけでなく、レストランなどもあるので休憩スポットとしてぜひ利用したい。

その先も迷いそうなところには連続矢羽根が。本来、太平洋岸自転車道の理想的な矢羽根設置としては、分岐に近づくにつれ矢羽根の数を徐々に増やしていき、分岐交差点内はこのように連続で設置、というもの。それに沿った設置方法となっている。

熊野川を渡る手前の紀宝トンネル。右車線に広い歩道があるため、車道を横断してそちら側を走ることに。

しかしトンネルを出るところで歩道が別方向へ向かっていくので、今度は左側へと渡る。

そして連続矢羽根が新熊野大橋へと誘う。この矢羽根が「三重は楽しかったかい? この先も気をつけて行けよ!」と言っているように思えた。

そして橋の中間に和歌山県の表示が。ついに最後の県、約束の地和歌山に突入だ!

次回は和歌山県のエリア解説編

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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