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太平洋岸自転車道実走調査⑫三重県:鳥羽から紀宝町までの道路状況や走行ポイントを解説

2022年秋にナショナルサイクルルートである太平洋岸自転車道の全ルートを実走調査した経験をもとに、その全容を紹介するシリーズ。今回は三重県部分の解説編。

DATA
鳥羽(フェリー乗り場)→紀宝町(和歌山県境)
距離:201.9km、獲得標高:3055m、最大標高:410m

ルート概要

海ルートと山ルートで距離と獲得標高が大きく変わる

伊良湖からの伊勢湾フェリーが着く鳥羽港から紀北町の長島(JR紀伊長島駅付近)まで、コースが大きく二手に分かれる。
国道42号を通り伊勢市を経て県道22号、38号(旧熊野脇街道)で峠越えをし、再び国道42号に合流して紀北町にいたる「山ルート」と、パールロードを走って志摩市へ出て、海沿いの国道260号を通る「海ルート」。
さらに海コースには志摩半島を往復するコースが設定されていて、ここを走るかどうかで距離も大きく変わってくる。今回実走したのは海ルートの志摩半島往復パターン。解説はそこがメインになる。

鳥羽市からもと有料道路だったパールロード(県道128号)を経て志摩市へ至るルートは、日本を代表するリアス式海岸を行く。伊豆半島の海沿いをまわるルートと1、2を争うアップダウンの多い難所だ。
パールロード入り口から志摩スペイン村先のコンビニまで、鳥羽展望台のレストランと喫茶店以外、約17kmにわたってコース沿いに食事のできる場所はほとんどない。飲料の自販機も少ないので、夏場の水分補給には注意が必要だ。

志摩半島往復は国道を走るルートで、適度なアップダウン。半島先端の志摩御座港から、以前は定期船が浜島港までをつないでいて、その利用をねらったルート設定だろうが、航路は2021年9月に廃止されており、今ではここは往復するほかない。浜島港側も同様で、小さな半島を往復するだけとなる。

紀北町から紀宝町までは国道42号をひたすら走り続ける。だが尾鷲市から熊野市までは海沿いから外れて山間部に入り、標高差400mクラスの厳しい上りを味わうことになる。


出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)

ルート高低差

熊野市に入る手前で400mアップ

上記のDATAにある距離と獲得標高は、海ルートを通って紀宝町まで行った場合のもの。これに加え志摩半島を往復すると、距離で41km、獲得標高440mほどプラスとなる。これが山ルートになると、海ルートに対して距離で35km、獲得標高で1300mほど少なくなる。

厳しさでいうと海ルートのほうが断然厳しいイメージだが、山ルートは高低差図を見ればわかるとおり、大台町と大樹町の境にある峠をトンネルなしで越える。さらにじわじわ上った先の荷坂峠があるため、距離が短いわりにはハードなヒルクライムを余儀なくされる。ただ伊豆半島の亀石峠越えルートや、このあと現れる尾鷲市と熊野市の市境にあたる大又トンネルといった400m級のクライムに比べれば、かわいいものかも。

海ルートはパールロード以降も細かいアップダウンが続く。高低差図で大きな上りとなっている紀勢南島トンネルは、図上では標高差で130mほど上ることになっているが、実際はトンネルでカットされているため100mほどの上り。

尾鷲市と熊野市の境となる大又トンネル(MAP⑥)を最高地点とする400mアップの峠は、太平洋岸自転車道全体を通じても難所のひとつ。

出典:国土交通省 関東地方整備局

道路状況

クルマの少ない国道42号

国道、県道を走るため、路面状態に問題はない。三重県は太平洋岸自転車道が通る6県のなかで、唯一ルートが自転車歩行者専用道を通らない県なので、砂の堆積や雑草の繁茂などサイクリングロードにありがちな障害はない。

紀伊長島から熊野市までは無料の自動車専用道(一部有料)が並行して走っているため、ルートの国道42号は幹線道路のわりにクルマも少なく走りやすい。志摩市から紀北町に至る国道260号も交通量は少ない。パールロード以降、歩道が広い部分が多いのもこのあたりの特徴で、車道を走りたくない場合は積極的に歩道を走るといい。

英虞湾をすぎて国道260号に入ったあたりから、トンネルが多くなってくる。歩道が設けられたトンネルもあるが、なぜか道路右側(山側)に広めの歩道がある場合が多い。これは和歌山県に入っても同様の傾向があり、道路を横切って道路右側となる歩道を利用する場面が何度もあった。

また紀北町にある道の駅紀伊長島マンボウ手前で、ルートは二手に分かれる。ここはナショナルサイクルルートに向けた整備をする前からダブルルートになっていたということで、こうなった経緯はわかっていない。
だが道の駅マンボウへ寄るルートは、トンネルを2つ通過することになるため、県道766号を使って紀伊長島駅前を通るルートも選択肢だ。

歩道の広い場所が多い


道路の右側(和歌山方面に向かって)に広い歩道があることが多い

走行注意ポイント

サイクリストに向けたトンネル内走行注意喚起

志摩市をすぎて国道260号が始まると、リアス式海岸らしくトンネルが増えてくる。交通量が少ないため、それほど危険ではないが、路肩が狭いトンネルもあり注意が必要だ。

愛知県と同様、三重県にも急坂を知らせる「この先 急勾配区間 走行注意」や、「トンネル内 走行注意!」といった看板がしばしば見られる。この「トンネル内 走行注意!」に関しては、サイクリストに向けた注意喚起になっていると思われるが、他の地域のようにクルマのドライバーに向けたものに変えたほうがいいと思う。

愛知県に続き、注意喚起の看板が現れる


クルマに向けた他県の注意喚起例

ルート案内の状況

茶色の案内看板が出現

標準サイズの矢羽根、路面標示、案内看板が基本。おもしろいのはパールロードの鳥羽展望台への分岐を過ぎてすぐに現れる茶色の案内看板。これはパールロード全線で三重県屋外広告物条例で広告物の掲出が規制されていることによるもの。この茶色の看板は、パールロード以外に、志摩市浜島町でも見られる。太平洋岸自転車道全線を通じて、ほかのエリアでは見られない仕様だ。規制エリアの詳細はこちら


三重県にしか見られない環境に配慮した茶色の案内看板(MAP①)

ここにしかない変わり種矢羽根!

熊野市の景勝地、鬼ヶ城に差し掛かったところで、それまで走ってきた国道42号は鬼ヶ城トンネルに入る。しかしここは自転車歩行者通行禁止。
太平洋岸自転車道のルートは、その脇にある鬼ヶ城歩道トンネルを通る。しかしここへ行くには歩道橋を渡っていかなければならないため、そのまま国道のトンネルに入ってしまうことも。
そこで国土交通省中部地方整備局紀勢国道事務所では矢羽根を連続して設置し本線から歩道へと誘導、さらに歩道にも歩道橋の上り口方向を示す矢羽根を置いた。そしてその歩行者トンネル内も、車道を走ると一方通行の逆走になってしまうため、車道ではなく右側の歩道を通ってほしいということで、矢羽根の頭を曲げるという荒業に出た。
ルールに縛られず、利用者の安全とルートのわかりやすさを最優先して案内方法を工夫した好例だ。


矢羽根が歩道へ誘導


矢羽根が歩道へ上がりさらに歩道橋へ


変わり種出現。もはや矢ではない(MAP⑨)

便利な距離標

太平洋岸自転車道の整備とは関連しないが、国道42号には起点である浜松からの距離を表示するキロポスト(距離標)がある。
これから先の主要市町までの距離がわかるのでありがたい。これは和歌山県に入っても続き、和歌山市内で太平洋岸自転車道ルートが42号から外れるまで見ることができる。


クルマ用の表示だが距離がわかって便利だ

自由に使える空気入れが

ルート案内とは関係ないが、ルート上の3カ所のサイクルステーションで、24時間使えるサイクリスト用の空気入れが設置されていた。聞くと三重県内で18カ所あるらしい。道の駅などにも設置してあるんだそうだ。
有人のサイクルステーションには空気入れや工具が用意されているが、無人の場所にこういった設備があるのは三重県だけで、今後全エリアで増えていくことを期待したい。


サイクルステーションに、自由に使える空気入れが設置されている(MAP③④⑤)

迷いやすいポイント

トンネルでMAPと異なる部分が

海ルートが山ルートに合流する手前、国道260号が道の駅紀伊長島マンボウに向かい孫太郎トンネルに入る直前で、ルートが二手に分かれ、左折すると紀伊長島駅に向かう箇所(MAP⑦)があるのだが、直前にこの左折を促す路面表示や案内看板がないため、直進してしまいがち。もっとも直進側も正規ルートなので問題はないのだが。

山ルートと海ルートが合流してすぐ、国道42号の長島トンネルには側道として長島歩道トンネルが左側に見える。
太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会によるMAPのデータでは国道の長島トンネルがルートになっているが、ここは軽車両通行止め。自転車はこの歩道トンネルを行かなければならない。同協議会のルートパンフレットには歩道トンネルを通るように記載されているので、データ版のMAPが間違っているということだ。

またこの長島トンネルに続き、江の浦トンネル、古里トンネル、道瀬トンネルと安全な歩道トンネルが併設されたトンネルが続くが、どれも歩道トンネル部分はルートになっておらず、車道が正規のルートとなる。

長島トンネルは、側道となる長島歩道トンネルを行くのが正しいルート(MAP⑧)

迂回路情報

とくに迂回路はなし

実走調査時点で、工事などによる通行止めや迂回区間はなかった。

観光&ビューポイント

パールロードと鬼ヶ城

パールロードには鳥羽展望台ほかいくつかの展望台があり、輝く太平洋を見ることができる。またそのパールロード終点近くには志摩スペイン村があるが、自転車での観光向きではないかも。
ほかにルート上ではユネスコ世界遺産登録された熊野市の鬼ヶ城が有名。遊歩道を歩くことになるが、自然が作り上げた景勝は大迫力。

御浜町の七里御浜ふれあいビーチにはパームツリーが立ち並び、ここだけカリフォルニアな雰囲気。

紀宝町にある道の駅紀宝町ウミガメ公園ではウミガメと触れ合える水族館や、レストランの生シラス丼が人気。

鳥羽展望台からは太平洋が見渡せる(MAP②)


志摩スペイン村がルートから見える


鬼ヶ城。熊野灘の荒波に削られた海蝕洞が1.2kmも続く大岸壁


七里御浜ふれあいビーチ(MAP⑩)


道の駅紀宝町ウミガメ公園(MAP⑪)

次回は鳥羽から紀宝町までの実走レポート編

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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