旅×自転車 記事

【島根県/広島県/岡山県】歴史の町並みと温泉、桜に出合った中国地方縦断2泊3日のサイクリング

島根から広島を経由して岡山まで、中国地方を縦断する総延長167kmのサイクリングも1日の走行距離は50km前後と控えめで、脚力に自信のないビギナーにもおすすめです。
旅の途中には湖(中海)の横断や秘湯感あふれる温泉宿、往時の面影を色濃く残した町並み、そしてこの季節ならではの桜と、見どころ・立ち寄りどころは五指に余ります。

1日目:米子鬼太郎空港から中海を渡って

羽田空港から全日空383便に乗り、鳥取県の米子鬼太郎空港に降り立ったのは10時40分。
自転車を組み立てて走り始めてまもなく、中海に浮かぶ江島に向かって橋を渡れば、そこはもう島根県でした。

ボタンの栽培が盛んな大根島(だいこんしま)を経由して中海を渡り、古代出雲の政治文化の中心であったという出雲国分寺跡を目指します。

やがて目の前に現れたのは、復元された礎石が並ぶ草地。まあ、“跡”ですから仕方ありません。説明板にあるイラストを参考にしつつ、往時の姿を思い浮かべてみましょう。続く出雲国府跡も同様です。

復元された礎石が並ぶ出雲国府跡

熊野大社に立ち寄りつつ日本秘湯を守る会の宿へ

蛇行する川筋をまっすぐにするため、細尾根を開削した日吉切通しを経て意宇川(いうがわ)沿いに県道53号をたどる道筋は、松江市と雲南市の境となる峠まで200mほどの上りです。


村の大百姓が開削した日吉切通し

途中、右手に現れる熊野大社に立ち寄って旅の安全を祈願。


出雲大社とともに出雲国一宮である熊野大社

さらに3km先となる須谷の集落に差し掛かると道幅が1車線に狭まり、道の勾配も増します。

名もなき峠を越えて下る途中、赤川に架かる温泉橋を渡って対岸をわずかに進むと「海潮温泉 海潮荘」が現れました。ここは島根県でただ一つ、日本秘湯を守る会の会員となっており、露天風呂に満ちた弱アルカリ性の湯がその日の疲れを癒やしてくれました。


大石をあしらった「海潮温泉 海潮荘」の露天風呂

2日目:日本さくら名所百選に認定された桜に遭遇

湯と食を堪能した翌日は、JR木次線(きすきせん)の日登駅(ひのぼりえき)を目指して西に向かいます。

ぶつかった県道45号は宍道湖(しんじこ)に注ぐ斐伊川沿いとなり、川の堤頂には日本さくら名所百選に認定された斐伊川堤防桜並木が2kmにわたって延びています。

訪れたのは桜の時期だったのですが、散策する人は少なめでした。

斐伊川堤防桜並木も散策する人は少なめ

川には増水時に沈んでしまう潜水橋(願い橋)が架かっていて、そこから眺める桜並木もおすすめです。


満開の桜の下でひと休み。斐伊川堤防桜並木にて


願い橋の途中から、斐伊川堤防桜並木を遠望する

JR木次線のディーゼル車両で標高差650mをクリア

日登駅で自転車を分解して袋に詰め、やってきた備後落合行きのディーゼル車両に乗り込みます。

民家と見紛うばかりの日登駅に到着。ここで自転車を分解して車両に乗り込んだ

2時間かけて到着した三井野原駅(みいのはらえき)のある場所は、JR西日本で最も高い標高727m。日登駅との標高差650mを、席に座ったまま汗一つかかずに上ることができました。


日登駅のホームで、JR木次線の到着を迎える

ダウンヒルを堪能し、交通の要衝だった旧東城町へ

さて、ここから備後落合駅までは線路に沿って国道314号を南へ。すぐに島根と広島の県境を越えた国道の交通量は少なく、沿道の人家もまばら。
自然とスピードが出る坂道を、走りに集中して下ります。

JR木次線がJR芸備線(げいびせん)と接続する備後落合駅から先ものどかな風景に変わりはなく、道の勾配だけが上りに転じます。それでも道が庄原市小奴可(おぬか)に差し掛かる頃には景色も開け、やがて交通の要衝として栄えた旧東城町(現庄原市東城町)の市街地にたどり着きました。

森と峡谷が広がる帝釈峡にも立ち寄って

中国自動車道のガードを目印に手前の友末交差点を右に曲がり、県道25号を南西に10km進んだ先が帝釈峡(たいしゃくきょう)。
国の名勝に指定された景勝地には5軒の宿があり、そのうちの一つ「帝釈峡観光ホテル 錦彩館」がこの日の宿となりました。

案内された部屋に入ると、窓外には水をたたえた神龍湖(しんりゅうこ)が広がっています。


「帝釈峡観光ホテル 錦彩館」の部屋から神龍湖を望む

翌朝は湖畔を巡ってから来た道を引き返しましたが、時間があれば遊覧船や貸しボートに乗ってもいいかもしれません。

3日目:東城町で史跡を訪たら、県境を越えて岡山へ

3日目は再訪した旧東城町の市街地で三楽荘や北村醸造場、古河印刷所といった史跡を訪ね、県道50号で県境を越えて岡山へ。


旧東城町の町並みを代表する三楽荘(旧保澤家住宅)


背景の商家は古河印刷所。この一帯にも旧東城町の美しい家並みが続く

県道157号を下った先の新見市哲多町(てったちょう)では、城谷川沿いのせせらぎ公園で桜に迎えられました。ここから石州瓦(せきしゅうがわら)とベンガラ漆喰(しっくい)壁の赤い町並みで知られる「吹屋(ふきや)ふるさと村」までは300mの上り。
県道85号に入ってからは勾配もきつくなるので、軽いギヤで焦らず上っていきましょう。

「吹屋ふるさと村」では、自転車を降りてのんびりと散策するのがおすすめ

「吹屋ふるさと村」を象徴するベンガラ漆喰壁の赤い町並み


近世ベンガラ商家の典型と評価され、国の重要文化財にも指定された旧片山家住宅


「吹屋ふるさと村」の外れとなる下谷にもベンガラ漆喰の集落がある

ヒルクライムイベントのコースを下り、備中の小京都で旅を終える

ふるさと村でしばしのタイムトリップを味わったら、10回を数えるヒルクライムイベント「高梁吹屋ふるさと村大会」にも使われる道を下って高梁へ。


醤油の製造・販売で財を成した池上家の邸宅であった商家資料館


かつて日本酒を醸造していた森澤酒造の前にて。商家資料館から500mほど下ったところ

JR伯備線(はくびせん)で岡山に着いたら、後は新幹線に乗るだけです。なお今回の行程は2泊3日ということで帝釈峡に立ち寄りましたが、三井野原駅から備中高梁駅までは旧東城町〜帝釈峡を省けば97kmとなり、一日で走り通すことも可能です。

コース紹介

まとめ

例年より開花が早まっている今年の桜も、北に向かえばまだ間に合います(2023年の盛岡市の満開予想は4月10日、青森市は4月17日、札幌は4月24日です)。
思い立ったが吉日。インターネットの予約サイトで航空機や鉄道、宿の手配をしたら、愛車を収めた輪行袋を担いで出かけましょう。もちろん桜が散ってしまった地域でも、新緑の本番はこれからですよ。

執筆:澤田 裕

社会人になってからサイクルツーリングに目覚め、『Cycle Sports』(八重洲出版)の校正や取材・執筆を長年にわたって手掛けている。日本国内に留まらず、区間を分けて5年で達成した台湾一周など海外での自転車旅も経験。

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