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【千葉県】房総半島サイクリングハンドブック完成イベント 南房総の素掘りトンネルを巡る

房総半島のサイクリングを盛り上げようと、木更津市と南房総市が、地元サイクリストが提案する魅力的なサイクリングコースを掲載したガイドブックを制作。
そのPRを兼ねたイベントが、12月10日に南房総市にあるサイクリング施設「HEGURI HUB」(平群ハブ)で開催されました。それに合わせて行われた体験ライドに参加したので、その模様を紹介します。

素掘りトンネル巡りコースに参加

ガイドブックに掲載されたコースは、地元千葉の内房レーシングクラブ、Sakata Racing Club、千葉県サイクリング協会、そして房総神社サイクルライド推進委員会の4団体が、南房総(あわの国)サイクルツーリズム協会の呼びかけに応じて作ったもの。それぞれ魅力的なコースで、房総の美しい海岸線や素朴な里山を駆け抜ける計6コース。
今回はそのうち房総半島に多い素掘りトンネルを巡るコースの一部を体験させてもらうことに。コースを監修した千葉県サイクリング協会の副会長、森浩文さんといっしょにHEGURI HUBを出発しました。

ハンドブックはA5サイズ32ページ。千葉県内外の観光施設やサイクリング関連施設で配布予定。またコースはRIDE WITH GPSのデータでも確認できます。

コース紹介


房総半島に高い山はありませんが、海沿い以外には細かいアップダウンが。ガイド役の森さんは小径車でそんなアップダウンを軽々とこなしていきます。
これはついていけないかもしれないなあ、と思ったところで森さんが一時停止。小向ダムです。

小向ダムは1975年に完成。南房総市の水源確保のために作られた上水道用水専用ダム。天端(てんば)まで入っていくこともできます。

森さんの後について里山をどんどん走っていきます。

防空壕としても使われた内郷トンネル

森さんについて脇道へ。クルマが走れないほどの細い道。急勾配で、しかも路面が苔むしていて、スリップしそう。慎重に上っていくと森さんが、「着きました」。内郷トンネルです。うっそうとした森の中に、突如として現れる小さな入り口。おおーっと思わず声が出てしまいます。

苔でスリップしないように慎重に走ります。

内郷トンネルの入り口。岩の層がワイルドに露出、砂岩や泥岩が幾重にも重なって地層を形成しているのがわかります。それが縞模様に見えています。

トンネルの内部に照明はあるものの、かなり暗く、足元には注意が必要。また路面は舗装されていないため荒れていて、ロードバイクは走らないほうがいいでしょう。
素掘りというだけあって、重機を使わずにツルハシなどを使って人が掘り進んだトンネルの壁面は、その削掘跡が縞模様になって残っています。

路面は荒れ、壁面にも荒々しい削り跡が。

このランダムな削り跡が、人力で掘られたことを伝えている。

房総半島は穴だらけ

森さんによれば、こうした素掘りトンネルは江戸時代から昭和初期に作られたものが多いということ。

房総半島の南半分は、大昔に海だったのが隆起してできたそうで、海底で砂や泥が堆積した「積層岩」の地層が特徴。砂岩や泥岩は掘りやすく崩れにくい。そのせいで房総には素掘りトンネルが多いのだといいます。

こういったトンネル以外にも、水路のトンネルを掘ったりして川の通りを変えて田畑にする「川廻し」と呼ばれる農地造成事業が、このエリアだけで450箇所も確認されているということです。横井戸、農業用水路、防空壕や軍事用として掘られた穴も多く、とにかく「房総は穴だらけ」なんだそうです。

内郷トンネルの中には、金網で入れないようになっている横穴が数カ所あります。戦争中の防空壕かなという気もしますが、それにしては大きいです。

トンネルの反対側入り口近くには「牛頭観音」と記された石碑が。馬頭観音はよくあるけど、牛頭とは? 千葉県は日本酪農発祥の地とされ、牛は昔から大切な財産だったはず。その牛に作物や農機具を負わせてこのトンネルをとおって農業をしていたので、それが死んだときにはこのようにして祀ったのではないか、というのが森さんの推測。

牛頭(ぐず)観音には新しいものもあります。

そんな昔の出来事に思いを馳せていたら、地元のお婆さんが大きなカゴを台車に載せて歩いてきました。すかさず森さんが、ここの横穴はなんですか?と聞くと「ああ、大東亜戦争の防空壕だ」と。大東亜戦争という言葉に時代を感じながら、疑問が解けた気がしました。

お婆さんはこのあと、カゴだけを背負って、先の畑の様子を見に行きました。

道の駅ローズマリー公園で休憩

そこからは次のトンネルを目指し、いったん和田の海沿いに出ます。天気もサイコーで、すごく気持ちがいい!

海岸沿いのサイクリングロード、和田白渚海岸、サーフ橋などをへて、道の駅ローズマリー公園へ。ここは産直の店「はなまる市場」と、シェイクスピア・カントリー・パーク(現在閉館中)、ローズマリーガーデン、リバーサイドプラザの3つの公園からなる複合施設。

ここで南房総名物であるビワ味のソフトクリームで休憩。

地元産品の店と、ヨーロピアンな建物。インスタ映えするスポットとしても有名。

サイクリストはソフトクリームが好き!

ほかに「くじらコロッケもおいしいよ!」と森さんが教えてくれました。

きれいに作られた名もなき素掘りトンネル

休憩を終えて、ここから再び内陸へ。また横道にそれてどんどんディープなエリアに入っていく森さん。

またしても脇道にズイズイ入っていきます。

その先に現れたのは次なるトンネル。トンネルの名称を森さんに聞くと、森さんも知らないということ。観光名所ではないので、表示版も案内もまったくありません。でもこういう観光地ではない場所をおもしろがるのが、新しい観光スタイルなんじゃないかという気もします。

入り口のアーチ型がきれいなので、ぱっと見は素掘りに見えません。路面はコンクリートで固められています。なんとか軽自動車なら通れるくらいの幅があります。

壁面上部にはトラック(?)がボディを擦った跡が。

ここにもきれいな削掘痕が。素掘りトンネルツアーにはライトが必携です。

反対側は草が覆いかぶさってジャングルっぽい。

本来のコースはさらに素掘りトンネルを見てまわるのですが、今日のトンネルツアーは時間の都合でここまで。スタートしたHEGURI HUBを目指すことにします。

名前のわからない素掘りトンネルまでの道を引き返します。

土曜日なのにクルマがほとんど通りません。ちょっとペースをあげてお弁当が待つHEGURI HUBへと急ぎます。

コース制作者による説明会

お昼前にはHEGURI HUBに到着。別のコースを試走してきたグループが、すでに弁当を楽しそうに食べています。なんと木更津市長、南房総市長まで来場していて、両市のサイクリングに対する期待がうかがえます。

HEGURIU HUBの芝生で楽しく歓談するイベント参加者たち。

君津のCYCLE SPORTS KYOTOをベースに活動するSakata Racing Clubのみなさん。

12時からは今回の房総半島サイクリングハンドブックのコース発表&意見交換会です。両市長のあいさつに始まり、各コースを作ったチームの担当者が、ポイントを説明していきます。会場はお弁当を食べたりコーヒーを飲んだりと、リラックスした雰囲気。

HEGURI HUBはもと保育所をリノベーションした施設なので、スペースには余裕があり、こんなふうにイベントにも使えます。

渡辺芳邦木更津市長(左)、石井裕南房総市長(右)。これからの房総半島のサイクリングによる振興と、各自治体の連携が必要だと強調しました。
木更津の渡辺市長はトライアスリートだということで、午前中の内房レーシングクラブとのライドで、その速さを見せつけたということです。

千葉には神主さんたちのチームがあった

内房レーシングクラブを主宰するカヤギサイクルの茅木孝さんは、房総半島の南側、千葉県の形をしたチーバ君の半分をまわる「半チーバくん」コースを説明。総距離211km!

この半チーバくんコースを完走すると、記念ステッカーがもらえます。スタート&ゴール地点である木更津市の金田地域交流センターのスタッフがサイコンやアプリで走行を確認して渡すということです。

ちょっとおもしろいチームがありました。「房総神社サイクルライド推進委員会」は、房総半島にある神社の神主さんたちのチーム。もともと神社には横の連絡組織があるそうで、そこでの若手神主の会合で「自転車でおもしろいことができるんじゃないか」と話が出たのがきっかけで結成されたといいます。代表の岡野大和さんも、鴨川市の天津神明宮の神主さん。「いろんな人たちと連携して、楽しいことをやっていきたいですね!」

今回のイベント参加者で記念撮影。「房総半島サイクリングを楽しんでくださいねー!」

まとめ

房総半島をサイクリングで活性化しようということでコースが提案され、それをハンドブックとして配布し、さらにそれをPRするためにこういった発表イベントが実施されました。
あとはTABIRIN読者のみなさんがこのハンドブックを手にしてサイクリングを楽しむ番です。個人的には今回参加したHEGURI HUB発着の素掘りトンネル巡りコースがおすすめ。
最近は派手な観光地よりも、こういったひっそりした「自分だけのスポット」的な場所を探して、地理や歴史に触れて地元の人たちと交流して、というのが楽しいかな。そういう走り方に、房総半島はぴったりだと思います。
私も千葉県民ですので、今回の取り組みをメッチャ応援しています。房総半島にサイクリングに来てねー!

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

記事情報リンク

▼南房総(あわの国)サイクルツーリズム協会
http://minamiboso-cycle-tourism.jp/

▼HEGURI HUB
https://hegurihub.com/

▼内房レーシングクラブ
https://www.facebook.com/uchibo/

▼Sakata Racing Club
https://cskyoto.com/club.html

▼千葉県サイクリング協会
https://www.chiba-cycling.org/cca/

▼房総神社サイクルライド推進委員会
http://boso-ride.jinja.ne.jp/ja/about.html

詳細は以下でもご覧いただけます。

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