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実走調査! 日本の自転車道 ルート2 トカプチ400 ③実走編その2

日本のサイクリングルートを走破するシリーズ。国土交通省のナショナルサイクルルートHPに掲載される「サイクルツーリズムの推進モデルルート」を中心に、各地のルートを不定期連載で紹介する。今回はトカプチ400の実走レポートその2。帯広市から北半分を時計回りに走った3日間の記録だ。

DATA
帯広市→音更町→鹿追町→糠平温泉郷→三国峠→糠平温泉郷→上士幌町→士幌町→音更町→帯広市
距離:216km 獲得標高:2152m 最大標高:1139m
実走調査日:20241010日〜12


士幌町と音更町の間で見た風景。北海道だー!

3日目はスタートから大混乱

トカプチ400の旅、後半戦は再び帯広駅・バスターミナルおびくるを出発。前半のスタートは駅の南口スタートだったが、後半は北口(おびくる側)から。まずは道の駅おとふけ なつぞらのふる里を目指す。

駅北側のルートをRWGPS(Ride with GPS)で確認して走り出すと、すぐに案内表示が出てきた。それに従って十勝大橋のたもとの交差点を2段階右折。橋の途中にも直進のサインが。十勝大橋を渡ってセイコーマートの交差点で右折のサイン。あれ?

ここは方向としては左折なんじゃないの? そう思ってMAP確認。あ、これは反時計回りで走る場合の矢印だ! 時計回りのルートは十勝大橋を渡る手前で左折。十勝川に沿った堤防の道路を行くことになっている。仕方なく戻るが橋のたもとからどう行けばいいのかわからない。行ったり来たりMAPと比べたりしながら時間だけが過ぎていく。RWGPSのルートを逆走するって考えると、橋の下をくぐるように思えるんだけどなあ。トカプチ400を走るには推理力、忍耐力が必要だ。結局十勝大橋の手前で堤防の道路に入った先に路面標示を見つけ一件落着。車道を走ってたらこれは目に入らないなー。この堤防道路がグーグルマップに表示されていないのも敗因だった。


市内の案内は矢羽根とともに自信満々で「こっちだ!」と言っている


十勝大橋のたもとの交差点も自信満々で右折の指示


だが連れて行かれるのは逆回りのルート


グーグルマップには表示されない堤防の道を入ったとこにこのサインがあった。それを見逃した俺が悪いってことだ。反対側には逆回り用の右折サインも見えるが、ここは手前でアンダーパスに入るんじゃなかったの?

諸悪の根源?は古いまま提供されているRWGPSのMAPデータ

あとで気づいたんだけど、ここの通行方法は公式MAP(トカプチ400サイクルマップ)に注意が掲載されてて、交差点の下のアンダーパスを通れとある。そんなもんがあったんかい! だがこの走行方向が反時計回りのルート用。つまり推奨されている回り方と逆方向に走る場合の案内が掲載されている。これは公式HPから飛べるRWGPSのルートにおいて、北半分が反時計回り(現在の公式MAPの推奨ルートと逆)で作られていることに原因があると思う。なので路上の案内看板も逆ルートを念頭に置いて設置されているんじゃないかな。

ただそのときはそんなことに気づいていないので、頭の中が???マークでいっぱいになりながら先に進む。

すずらん大橋近くでは車両通行止めのゲートを突破(!)し、続く平原大橋でも同じように(これも解説編に記載した)イライラさせられながら北上。道の駅おとふけ なつぞらの里に到着。まだ10kmしか走ってないのに大休止。この道の駅はトカプチ400のゲートウェイにも指定されていて、クルマで来る際にはここを起点にしてね、ということだ。

自動販売機ではタイヤチューブなどが売られていた。


すずらん大橋手前で左側に下りてアンダーパスを行くのがルートなんだけど、ここにも案内はない


そしてその先には通行禁止のゲートが! 「一般車両の通行は御遠慮下さい」とある。日本唯一の「通行止め自転車道」か!? 真面目な俺は迷わず突破。あとで帯広河川事務所に確認したら「自転車はいいですよー」とのこと。自転車も一般車両ですが?


平原大橋の手前にもゲートがある。これは河川敷のゴルフ場を利用するクルマを夜間に規制するためのゲートだったらしいが、今はゴルフ場も使われなくなり、ゲートは閉めたまま


ゲートウェイにもなっている道の駅おとふけ なつぞらの里。十勝を舞台にした「なつぞら」という2019年の連続テレビ小説に登場した建物(のレプリカ)が立ち並ぶエリアもある大規模な道の駅。車中泊のできるパーキングエリアがあるなど、トカプチ400にクルマでアプローチするならここだ


サイクルラックもあちこちに設置されている


自販機には補給食といっしょに自転車タイヤ用700Cチューブ(仏式バルブ)とシーラントが売られていた

不意に現れるジェットコースター坂

ルート沿いにある白樺並木で写真を撮って、さらにズンズン進んでいく。この先、今回最大の難所であろう白樺峠の上り口まで約50kmなんだけど、高低差図を見るとすごく上ってる! だが冷静に考えると50kmで500mなんで、勾配は1%。わははははは! 驚かせるんじゃねえよ! 実際に走ってみても勾配はほとんど感じない。多少のアップダウンはあるけど。

と思ったら、その先ですんごいアップダウンが出現。最初はダウンヒルの先に同じくらいの上り返しが見えた。よーしと思って全開で下りをこいで、上りの途中で失速、あとはヒルクライム。やっとクリアしたと思ったら、またその先に下りと上り返しが! 再び下り全力! うおおおおおおおおーーーーっ!! 結局これが5発あって、下りも上りも全力出すもんだからすっかり疲労困憊。写真? ありませんよそんなもん。

もうここでリタイヤしてもいいんじゃね?

魂抜かれた状態でたどり着いた道の駅うりまく。もう13時だしここで食事していかないと、この先の峠を越えられないのは明らか。だが、ここにはレストランがなく、パンなども売っていない。瓜幕の町中にも食事できるところはなさそう。道の駅で飯食えないってどういうこと!?と憤りつつ、少し先の「森のキッチンかわい」というのをグーグルマップで見つけ、電話すると営業しているとのこと。

ここでカレーライスを食べながら一人作戦会議。この先、白樺峠、幌鹿峠が待ち構えている。時間はすでに2時過ぎ。距離は幌鹿峠まで30km弱。たいしたことはない。でも勾配はそこそこある。しかもじつはかなり疲れている。押すことになるかも。でもそうすると明るいうちに峠を下ることはできないだろう。暗くなるとクマが出るかもしれない。

キッチンかわいのママさんに、ぬかびら温泉郷まで行くバスはないかと聞くが、もちろんそんなものはなく、タクシーも士幌町から呼ばないとダメ。もちろん自転車に乗らずにぬかびら温泉郷にたどり着いたとしても、それってトカプチ400を完走したことになるのか?って思いもある。でもなー。このまま行くと、途中で警察を呼ぶような事態にもなりかねない。

うー。うー。

答えはひとつ。行くしかない。


道の駅うりまく。食事はできない


森のキッチンかわい。開いててよかった。ここでママさんに、バスはないかタクシーは呼べないかと聞いていたら、「幌鹿峠?クルマなら30分なんだけどねー」と言われた


しっかり食べといてよかったカレー。この先に店がないと知って、何かテイクアウトできるものないかと聞いたら、おにぎりを作ってくれた。これがこの先すごく助かった

クマよけに叫びながら走る

非常食としておにぎりを握ってもらい、出発。白樺峠手前5kmくらいから上りがキツくなってきた。頑張らずに押すことに。

シューズはツーリング用のソールが柔らかいものなので、歩くのは大丈夫。

ところが後ろから上ってきたクルマが止まって「さっきクマを見たから気を付けてね」という。やっぱり出るんだ! クマよけの鈴とか持ってくるべきだった!

そこからはあーーーーっ! あーーーーーっ!と声を出しながらの走行、いや歩行。

1時間ほど押しただろうか、白樺峠に着いた。少し下って然別湖。ここには1軒ホテルもある。そうか、今日の宿をキャンセルしてここに泊まればいいんだ!

勇んで電話してみたが満室とのこと。だよねー。

半べそをかきながら然別湖の縁をまわっていざ幌鹿峠へ。


白樺峠直前にある千畳くずれという名所。岩がゴロゴロした斜面が珍しい。ちなみにこの道道85号が通る鹿追町は、町全体が日本ジオパークに指定されているんですね! 原稿書くまで知らんかったよ!


白樺峠。然別湖まではバスがあったんだな


然別湖ネイチャーセンターでおにぎり休憩。リタイアするならここが最後のチャンスだった

孤立無援! 絶叫する自転車オヤジ

ここからの勾配は白樺峠ほどではなかったが、いやいや押しましたよ。もうまわりが暗くなってきてて、クマが来ないように狂人のようにわーわー叫びながら自転車を押す63歳。

助けを求めようにもクルマはまったく通らない。スマホを見ると電波は届かない。元自転車雑誌編集長、サイクリング中にクマに襲われ死亡! そんな新聞の見出しが頭の中を駆け巡る。思い切り叫ぶ。わああああああーーーーーっっ!!

そして幌鹿峠。着いた。生きてる。

写真を撮っただけで即座に下りだす。つづら折りの急な下り。路面は見えない。クマは怖い。わああああーーーーーーっ!!

声が枯れかけたころ、ぬかびら温泉郷のホテルに着いた。然別湖からここまで1台のクルマにもあわなかった。すでに18時。周囲は真っ暗だった。

本日の走行85km。


鹿幌峠に着いたが写真はこれだけ。早く下らないと


トカプチ400にはトンネルやクルマの通行に注意を促す注意喚起看板が4種類ある


2連泊するぬかびら温泉郷の宿は昭和4年創業の糠平温泉ホテル


2泊で23,000円くらい。高かったがほかが空いてなかった


もちろん2食付き。温かさが胃にしみる

北海道の国道最高地点、三国峠へ

翌日はトカプチ400のハイライト、三国峠への往復だ。距離は往復でも60km程度。全然大丈夫でしょう!と、昨日の体たらくをすっかり忘れて走り出す。朝10時。

たしかに上りはユルい。さすがの俺でも押すほどではない。でも長い。ダラダラした上りが延々と続く。途中、観光スポット的なところがちらほらあるが、見向きもせずにペダルを踏み続ける。まさに修行。景色がいいのが救いだが、15分ごとに休憩って感じ。


さあ上っていきますよー


上りの途中にあった幌加除雪ステーション。サイクルステーションになってて、中にきれいなトイレもあるしベンチに座って暖もとれる


トカプチ400の周辺を走る道路パトロールカーには工具やポンプが積んであり、貸出サポートをしてくれる。これは安心感があるね


メンテナンススタンドまで用意してある。拍手

峠のカフェでゆっくり

やっとの思いで三国峠。というよりその手前にある松見大橋の眺望スポット。ここで写真を撮る人がたくさんいて、その人たちとクルマを分離するためのラバーポールが設置され、安全に撮影できるようになっていた。その先すぐに三国峠カフェ。ついにトカプチ400の最高標高地点に到達! 時間はすでに13時になっていた。

あとは下るだけなので余裕。食事をしてコーヒーを飲み、ゆっくり時間をすごす。古いモンキーのロードバイクに乗った人に出会い、しばらく話をした。

ちなみに今回の5日間で出会った(すれ違った)サイクリストは全部で3人! いくらなんでも少なくない?


白樺林の景観が素晴らしい


ところどころ、上士幌からの距離と標高を示す看板があり、励みになる


松見大橋。オートバイのライダーに撮ってもらいました


三国峠カフェ。小さなカフェだがクルマで来る人で大賑わい。俺もかなり待って座った


三国峠展望台。木が茂って眺望を遮ってしまっている

ダウンヒルはノーブレーキで

これから30kmのダウンヒル。手がかじかんだりしないか心配だったが、そんなに寒くはなかった。上りでラクだったぶん、下りも勾配はゆるい。スピードは出ない。コーナーがきつくないので、ほぼノーブレーキで下れる。

途中、旧士幌線の幌加駅跡とか、タウシュベツ川橋梁跡が見える展望台?に寄ったりしながら再びホテルに。

本日の走行62km。


幌加駅跡近く。線路の切り替えが自分でできる


生きててよかった


タウシュベツ川橋梁の展望台みたいなとこ


望遠で撮るとこのくらいには見える


ホテルでは自転車をロビーに置かせてくれた

最終日はまったり

そして最終日はぬかびら温泉郷から帯広までの約70km。わずかーな下り基調なんだけど体感的にはほぼ平坦。朝9時に宿を出て、10時半には道の駅かみしほろ着。ここでのんびりカフェ&スイーツ休憩。帯広まであと40km。いやこりゃもう終わったも同然でしょう。すでに心にはトカプチ400完全制覇の満足感がジワジワ広がってきている。

士幌町の道の駅ぴあ21しほろでもゆっくり。

その後は真っすぐで単調な道にちょっと飽きながらも、ちんたらペダルを踏んで14時半には帯広駅・バスターミナルおびくるにゴール! いやあ、やりましたなあ。これで俺も胸を張ってトカプチ400を走りましたと言えるわけです! あ、一部歩いたので胸は張れないか。

その夜はホテル近くの回転寿司で祝杯を上げ、翌日は預けてあった輪行袋を受け取ってそれを背負って帯広駅へ。そこで輪行してバスで空港まで!

終わってみれば楽しかったぞ北海道。またな!


糠平ダム。糠平湖はダム湖だ


士幌線第三音更川橋梁跡。現存する北海道の鉄道用コンクリートアーチ橋としては最古のものだという


道の駅かみしほろでスイーツ休憩


士幌町で見たばん馬の仔馬、かな。意外に大きいのかも


音更町。こんな季節にひまわりが咲くんだな


バスターミナルおびくるでゴール!


いやーよく走ったねー


翌朝、おびくる前で輪行作業


おびくるにある更衣室はありがたい


また空港連絡バスでとかち帯広空港へ

DATA

トカプチ400HP

トカプチ400サイクルマップ

Ride with GPS

サイクルルート北海道

まとめ

ハッキリ言って整備状況はよくない。ほかのナショナルサイクルルートと比べてしまうとダントツの最下位。とにかくお金を使ってない。これじゃまだナショナルサイクルルートになれてない福井のわかさいくるとか、鳥取うみなみロードとかが怒り出すレベル。そして路面も「横断クラック」のせいで全然走りやすくない。でもね。

やっぱり北海道には旅人を引き付ける不思議な力がある。北の大地を自分の脚で走ったという満足感がある。そして島しかないしまなみ海道とか、湖しかないビワイチなんかと違い、トカプチ400は黒潮洗う太平洋から北海道でいちばん標高の高い峠まで、風景や地形、生活の変化に富んだダイナミックなサイクルルート。こういうのってそうそうないんじゃないかと思う。クマに怯えるのも、食事するとこがなくて腹ペコのまま走るのも、北海道サイクリングの一部だと思う。国交省のエラい人が言っていた。サイクルルートを作り上げるのはそこを走る一人ひとりのサイクリストなんだ、って。まだまだ未完成なトカプチ400。それを作り上げていく歴史のひとつのピースになる。それってすごいことだ。俺はそのひとつになった。

さらばトカプチ400! 眼下に十勝スピードウェイ、中札内の町、そしてトカプチ400のルートが見えた! 俺はこの大地を走ったんだ!

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。ナショナルサイクルルートは全ルート全行程を走破している。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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