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実走調査!日本の自転車道 ルート1 富山湾岸サイクリングコース ①解説編

日本のサイクリングルートを走破していく新シリーズ。国土交通省のナショナルサイクルルートHPに掲載されている「サイクルツーリズムの推進モデルルート」を中心に、各地の自転車道を不定期連載で紹介していく。各レポートは解説編と実走編で構成され、これから走る人に向けた実用ガイドを目指している。

第1回目はナショナルサイクルルートにも指定されている富山湾岸サイクリングコース。まずはその概要を解説しよう。

DATA
富山県氷見市脇(石川県境)→富山県下新川郡朝日町境(新潟県境)
距離:102km 獲得標高:435m 最大標高:35m
実走調査日:2023年7月26日〜27日

 


魚津市の海の駅しんきろう先の海岸線。シーサイドコースとして日本屈指の爽快さだ

成り立ち

2021年5月にナショナルサイクルルート(第2次)に指定

富山湾に沿って石川県との県境から新潟県側の県境までを結ぶ全長約102kmのサイクリングルート。2014年から整備が開始され、2015年に氷見市から朝日町までの88kmが富山湾岸サイクリングコースとして制定された。2018年には「富山県サイクリングコース整備連絡調整会議」の発足にあわせ、ナショナルサイクルルートの指定要件(ルートの延長がおおむね100km以上であること)を満たすべくそれぞれ県境までルートが伸延され、現在のルートとなった。

2021年には国土交通省により第2次ナショナルサイクルルートの指定を受け、連絡調整会議が「富山県自転車活用推進連絡会議」に発展、現在の整備推進を担っている。

おおもととなったのは1973年から全国で整備が始まった大規模自転車道のうちのひとつ、富山県道375号富山朝日自転車道線。富山市鵯島と朝日町の越中宮崎駅をつなぐ約43.9kmの自転車歩行者専用道(サイクリングロード)は、富山魚津自転車道線、富山黒部自転車道線など複数の名称で呼ばれながら、現在は一部が「しんきろう自転車道」(愛称)として親しまれている。この海岸線ルートに氷見側の海岸線(おもに国道160号)を追加して整備されたのが富山湾岸サイクリングロードだといえる。


多言語で表示された全体コース案内看板が全部で6カ所設置されている

ルート概要

富山湾に沿って走る超フラットな102km

ルートは基本的には一本道。西の端は富山県氷見市内、JR氷見駅から約15.5kmほど海沿いに行った石川県との県境(MAP①)。反対側は朝日町の越中宮崎駅から3kmほど先の新潟県との県境(MAP⑲)。どちらが起点終点というわけではなく、両方にルートの起終点を示す表示がある。

海岸沿いといっても日本海から連想されるリアス式の海岸ではなく、出入りのほとんどない穏やかな地形の富山湾に沿った道なので、高低差はほとんどないと言っていい。実走した印象としては氷見側起終点と氷見市街の間にひとつアップダウンがあるだけで、坂が苦手な初級者やファミリー層にも安心して走れるルートとなっている。

また一部ダブルルートとなっている場所があるが、これはルートの海沿い部分で冬期や荒天時の予備ルートが設定されているもの。基本は海沿いのルートをたどれば問題ない。

おおまかに言うと氷見川起終点から富山市の神通川を渡るまでが一般道、そこから朝日側起終点までが自転車歩行者専用道をつないで走るイメージ。一般道はコンビニや商店などもあるので問題ないが、自転車歩行者専用道部分は自動販売機などがなく補給に困ることも考えられるので、注意したい。

海沿いのルートということで風の影響を受けやすいので、季節や風向きによって氷見側から走るか朝日側から走るか判断するといいだろう。


一般道と自転車歩行者専用道を組み合わせてルートとしている


地図上の数字は解説中の数字に対応

アクセス

氷見側起終点へは往復するしかない

東京から北陸新幹線で行くとJR富山駅は意外に近く、最速2時間8分で着いてしまう。しかしここから起終点までのアクセスはあまりいいとは言えない。

今回の実走調査では氷見側の起終点から走り始めることにしたが、時間帯によってはあいの風とやま鉄道高岡駅→JR氷見駅までの接続が悪く(運行本数も少ない)、さらに氷見駅から起終点までの公共交通機関は利用できない。高岡駅からの路線バスがあるにはあるのだが、輪行状態にしても自転車は持ち込み不可だ。そのため氷見側の起終点までは氷見駅からの往復を余儀なくされる。片道15kmなので走ってしまえばいのだが、一度走った道を引き返すのは面白みがない。また実質裏道もない。

また反対の朝日側はあいの風とやま鉄道の越中宮崎駅から3kmほどなのだが、東京から来るとここまでのアクセスも悩ましい。北陸新幹線で糸魚川に出て、そこから自走してしまえと思うかもしれないが、この間には親不知・子不知(おやしらずこしらず)という交通難所があり、道幅が狭くトンネルも多い。クルマでも大変だというこの区間を自走するのはおすすめできない。結局糸魚川からえちごトキめき鉄道の日本海ひすいラインで市振駅までそのまま輪行してしまうことになるが、ここも運行本数は少ない。

どちらから走り始めるにせよ、列車の接続をよく考えないと大変なことになる。または全線を走るのをあきらめ、西側は氷見駅から走るのも手だ。または起点を富山駅にしてあいの風とやま鉄道の「あいの風サイクルトレイン」を利用して入善駅へ行き、そこから氷見側へ向かい、帰りは氷見駅から輪行して富山駅で新幹線に乗り継いで帰る、といった行程も考えられる。いずれにせよ富山湾岸サイクリングコース攻略にはアクセスの工夫が必要だ。


氷見駅はJR氷見線の終着駅。ここから先は自走するしかない


氷見側の起終点は石川県との県境


第3セクターであるあいの風とやま鉄道は、素晴らしい専用ラックを使ったサイクルトレインを運行している。予約制なので注意

ルート高低差

獲得標高は430m

JR氷見駅から起終点までの国道160号で、2つめのトンネル(MAP④)を過ぎた大境という集落付近にゆったりしたアップダウンがある。あとは雨晴海岸にも少し上り下りがあるが、あとはルートに起伏はほとんどなく、とくに富山市から東側は真っ平らだと言っていい。とはいえ細かいアップダウンの累積なのか獲得標高(上りの標高差の合計)は435m(実走値)となった。初級者やファミリーにも走りやすいのがこの富山湾岸サイクリングコースだ。


出典:とやまサイクリングマップ(富山県観光振興室)


氷見市の上庄川にかかる比美乃江大橋(MAP⑤)。こういう橋の上り下りがアップダウンといえばアップダウン

道路状況

一般道、自転車歩行者専用道含めおおむね良好

海沿いの自転車歩行者専用道を多く走るので砂の堆積などが心配だったが、通行に支障をきたす箇所はみられなかった。また草の繁茂などもなく、自転車歩行者専用道部分はしっかり管理されている印象。

また一般道部分は自転車走行帯の狭い部分もあるが、とにかく交通量が少ないので問題に感じることはなかった。この交通量に関してだが、今回は学校の夏休み期間中とはいえ平日の調査。さすがに土日は観光などで交通量も多いのかと地元の人に聞いたところ、やはり少ないとのこと。自転車にとっては走りやすい環境だ。


海岸線の自転車歩行者専用道も砂の堆積はこの程度


氷見市内の国道160号。とにかく交通量が少ない

走行注意ポイント

氷見市内と高岡市内にトンネルが3カ所

交通量の少なさもあって、走行に危険を感じるような場面は皆無だった。氷見側の起終点から富山市方面に向かって走ると3カ所のトンネル(MAP③④⑦)があるが、短いうえにクルマも来ないのでまったく問題なかった。富山市内では交通量の多い国道415号を通るが、状況に応じて歩道を走るようにすれば問題なく通過できる。

富山市内の海岸沿いの自転車歩行者専用道には車道を横切るところに車止めが多く設置されている(MAP⑭)が、これが進行方向に対して見づらい設置となっていて、ぼんやり走っていると接触してしまう危険がある。この設置方法は一考する必要があると感じた。


道の駅雨晴先のトンネル(MAP⑦)。歩道もあるが交通量が少ないのでまったく怖くない


全ルートでもっとも交通量が多いのがこのあたり。富山市内の国道415号(MAP⑫)


なぜこういう設置方向なのか。走りやすいとも言えるが、見落とすと接触する危険がある。何か看板を付けてほしい

ルート案内の状況

新旧の案内表示が混在する

路面に複数の案内表示が混在するのがよくも悪くも富山湾岸サイクリングロードの特徴。

まず路面標示だが、氷見側で最初に目につくのが新しいブルーの矢羽根。これはナショナルサイクルルート指定後に整備されたもの。またそのナショナルサイクルルートのシンボルマークと多色を用いた自転車ピクトグラムも要所に配置されていて目につく。しかしこの矢羽根と混在して、10m間隔で敷設された青い破線のコース表示もある。これはナビゲーターラインと呼ばれ、ナショナルサイクルルート指定以前に整備されたルートガイド。ラインの先に進行方向を示す小さな矢印がありコースの確認には有用だが、西へ向かうにつれほかのコースとの分岐などで迷う場合もある。

とくに魚津付近では「魚津周遊コース」などほかのルートの表示が混在するようになり、コースミスしないように注意が必要だ。

矢羽根はルートガイドではなく自転車の走行空間を示すものだが、ナショナルサイクルルートの指定要件になってしまっているため、今後はナビゲーターラインではなく矢羽根中心の整備になっていくかもしれない。ただナビゲーターラインはわかりやすいので、うまく併用したルート表示にしていってほしいと思う。


ナショナルサイクルルートのシンボルマークと自転車ピクトグラム。多色を用いたものはコスト高になるので、全国的に見ても珍しい


自転車の走行空間を示す矢羽根とナビゲーターラインが共存する。ナビゲーターラインは古い表示とのことだったが、新しいナビゲーターラインも散見された


分岐点手前のナビゲーターラインには小さな矢印がついていて、ルートの方向を示している


しんきろうサイクリングロードと重複する区間ではこのような表示が多くある


細い路地がルートになるところにはミニ矢羽根も

途中で表示がしんきろうサイクリングコースに

次に案内看板。「富山湾岸サイクリングコース」と表示されたコース分岐点誘導標識が分岐部にあり、非常にわかりやすい。ルート案内の役割は矢羽根ではなくこの標識が担わされている。ただひとつ問題は、この表示が富山市の岩瀬浜海水浴場から生地町の間で約30kmにわたり「しんきろうサイクリングコース」に変わってしまうこと。このしんきろうサイクリングコースの表示は平成26年に富山湾が「世界で最も美しい湾クラブ」に加入したのにあわせ、台湾などからの観光客に向けて整備されたもの。サイクルルートとして富山湾岸サイクリングコースが整備される前からあったため、重複する部分はそのまま活用されているという。

その成り立ちを知らないとサイクリストが混乱するおそれもあり、今後は富山湾岸サイクリングコースへの表示切替が検討されていくことだろう。ちなみにしんきろうサイクリングコースは愛称で、正確には富山県道375号富山朝日自転車道線となる。本来この富山朝日自転車道線は富山市鵯(ひよどり)町から朝日町の越中宮崎駅まで続くのだが、生地町から先は表示などが未整備であったため、この区間は富山湾岸サイクリングロードの表示になっているというわけだ。

またルート上には現在地から起終点までの距離を表示する目的地距離標と呼ばれるポールが5kmおき(計画時)に設置されていて、距離の目安としてとても便利。さらにサイクルステーションまでの距離を示すポール標識も整備されている。


非常にわかりやすい分岐誘導標識。進路の指示は矢羽根ではなくこの標識が担っている


富山市から入善町までの間はしんきろうサイクリングコースの表示に変わる(MAP⑭)。事情を知らないと富山湾岸サイクリングコースはどこへ?と思う


しんきろうサイクリングコースの案内。ライトレールの岩瀬浜駅からJR生地駅まで。表示は日本語、英語のほか韓国、台湾、中国の言語にも対応


ゴールまでの距離を表示する目的地距離標


サイクルステーションまでの距離表示

迷いやすいポイント

迷うことはほとんどない

しんきろうサイクリングコースの表示が混在することさえ理解していれば、路面標示、分岐点の誘導標識とも充実しているので、迷うことはない。

ただ高岡市の伏木から小矢部川を渡った先の交差点(信号のない交差点を鋭角に右折)は、メインの道路から急にそれるため、事前の指示を見落とすとコースミスしがちだと思った。よく見ると事前のナビゲーターラインの矢印があるのだが、橋からの下りでスピードがのっているため見落としがちで、分岐点誘導標識が突然現れる、という感覚。路面に大きめの表示を設置してほしいと感じた。

またサブルートになっている場所が大小合わせ5カ所あるが、予備知識なしに通りかかるとどちらへ進めばいいか迷いがち。以前太平洋岸自転車道を走ったときも感じたが、なぜサブルートになっているのかを案内できるといいと思う。


急にこの分岐誘導標識が出てきた!と思ったが……


手前をよく見たら矢印があった


どっちへ行けばいいのかわからない


こうやって表示があればわかりやすい


これもわからない

観光&ビューポイント

ルートから少しそれて観光を楽しみたい

ナショナルクラスの観光地も多い富山県だが、このサイクルルート沿いにはそれほど多くの観光スポットがあるわけではない。だが氷見市のまんがロード、射水市の内川エリア(MAP⑨)、富山市の海王丸パーク(MAP⑩)、新湊大橋(MAP⑪)、岩瀬の町並み(MAP⑰)、黒部市にある生地の清水(しょうず)(MAP⑰)、朝日町のヒスイ海岸(MAP⑱)など、ぜひ訪れたい場所がたくさんある。

またビューポイントはなんといっても氷見市の米良から見る「虻ケ島越しの立山連峰」(MAP②)と、高岡市の道の駅雨晴近辺から見る「海越しの立山連峰」(MAP⑥)だ。富山湾の海の向こうに3000m級の山々が連なる様子は、富山県を代表する絶景。12月から2月ころの積雪があり空気が澄んだ時期にきれいに見えるというが、サイクリングシーズンにも運がよければその雄大な景色を見ることができる。また氷見側から走ると右側に見える山々のパノラマも美しい。


氷見市は藤子不二雄Ⓐの故郷。まんがロードには怪物くんや忍者ハットリくん、プロゴルファー猿などのオブジェがたくさん


日本のベニスとも言われる内川地区


海王丸パークの「世界で最も美しい湾クラブ」モニュメント。ここには商船学校の練習船として活躍した海王丸が展示係留されている。横浜港の日本丸とは姉妹船


新湊大橋は自動車道の下が自転車と歩行者の通路となっていて、ここがルートに設定されている


ヒスイ海岸。熱心にヒスイを探す観光客がいた


虻ケ島越しの立山連峰。今回の調査時はこんな感じ。ちなみに立山という名前の山はなく、3つの峰の総称だそう


電車の中で見た海越しの立山の景色。いつかしっかり見てみたい!

DATA

とやまサイクルナビ
https://cycling-toyama.jp/

とやまサイクリングマップ
https://cycling-toyama.jp/wp-content/themes/cyclemap/top/pdf/TOYAMACYCLINGMAP_jp.pdf

次回は富山湾岸サイクリングコース②実走編その1

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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