旅×自転車 記事

太平洋岸自転車道実走調査①:ナショナルサイクルルート「太平洋岸自転車道」の走り方

2022年の秋に筆者(ペダルプッシャー岩田)が太平洋岸自転車道を銚子から和歌山まで走破した体験をもとに、その走り方をお伝えするシリーズ。これから太平洋岸自転車道を走る人の参考になればと思う。第1回目は太平洋岸自転車道の概要から。

太平洋岸自転車道とは

2021年5月にナショナルサイクルルートに指定

千葉県から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県を通り和歌山県までをつなぐ、日本最長1400kmのダイナミックなサイクリングルートが太平洋岸自転車道だ。その名のとおり、おもに太平洋岸を通るルート設定で、案内表示や周辺施設の整備などを含め大規模な整備が行われている。

太平洋岸自転車道は、2019年11月に指定されたしまなみ海道サイクリングロード、ビワイチ、つくば霞ヶ浦りんりんロードに続き、富山湾岸サイクリングコース、トカプチ400と並んで2021年5月にナショナルサイクルルートに指定された。

ナショナルサイクルルート制度は、「優れた観光資源を走行環境や休憩・宿泊機能、情報発信など様々な取組を連携させたサイクルツーリズムの推進により、日本における新たな観光価値を創造し、地域の創生を図るため、ソフト・ハード両面から一定の水準を満たすルートを国が指定することで、日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルートとして国内外にPRを行い、サイクルツーリズムを強力に推進していくもの」とされ、国土交通省により推進されている。
簡単に言うとナショナルサイクルルートは、国が認めた「日本を代表し世界に誇りうるサイクリングコース」ということになる。

太平洋岸自転車道はもともと1970年代に全国に作られた大規模自転車道事業のひとつとして整備された。
和田白浜館山自転車道線、静岡御前崎自転車道線など、太平洋岸自転車の一部として11の自転車歩行者専用道路が整備され、現在も供用されている。それらをつなぐ形でナショナルサイクルルート指定に向けて路面の矢羽根表示、案内看板などが整備され、現在のような姿の新しい太平洋岸自転車道となった。
「自転車道」と名乗ってはいるものの、自転車歩行者専用道路として整備されているのは196kmのみ。あとは既存の国道・県道に矢羽根を設置し、ルートとしている。

▼国土交通省ナショナルサイクルルート
https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/national_cycle_route/


昭和の時代から太平洋岸自転車道として整備が進められてきた

ルート概要

千葉県銚子市から和歌山県和歌山市までの1400km

起点は千葉県銚子市の銚子駅前。終点は和歌山県和歌山市の加太港。銚子駅前と加太港にあるモニュメントには1400kmという距離表示があるが、太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会のアクションプランによれば総延長は1481kmとなっている。
だがこれは整備の総延長距離であり、実際に銚子から和歌山まで走ってこの距離になるというわけではない。ルートには伊豆(伊豆半島を回るルートと箱根を越えるルート)や伊勢志摩(山沿いルートと海沿いルート)など、二手に分かれてから合流する部分もあり、距離にはこれらが合算されている。また三重県の志摩半島や浜島、ほかにもサイクルステーション(サイクルラックなどを備えたサイクリスト対応施設)である道の駅までを往復する部分など、ルートを走るためには往復せざるを得ない場所でも片道分しかカウントされていない。

筆者の実走によれば、伊豆半島をまわり伊勢志摩は海沿いコースを走って約1400km。これは志摩半島などの往復に加え、ルートから少し外れた宿や一部ルートにない景勝地への往復も含まれているが、ルートとなっている一部の道の駅などのサイクルステーションには立ち寄っておらず、その距離は含まれない。


出典:「太平洋岸自転車道」(国土交通省 近畿地方整備局)

▼2019年時点でのアクションプラン(予定)
https://www.kkr.mlit.go.jp/road/pcr/news/pcr_actionplan201225.pdf

ルート高低差

総獲得標高は12,782m

太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会によるMAP(以下MAPと呼称)によれば、総獲得標高は12782mという驚くべき数字。エベレストの1.5倍近い標高を上ることになる。
ただこれは前述した並行ルートなどを含んだ計画総延長の数字。しかも獲得標高の計算にトンネル部分がカットされていない。
トンネル部分はそのまま山を直登して越える設定になっているので、実際よりかなり大きな数字になっていると思われる。実際はこの半分から3分の2程度の獲得標高になるのではないだろうか。


出典:国土交通省 関東地方整備局
プロフィールマップ(高低差図)を見ると、短い距離で激しく標高差のある部分(スパイク状にグラフがとがっている部分)がいくつもあるが、これは実際にはトンネルで通過することができ、このような標高差にはならない

ルート案内の状況

矢羽根や看板が充実している

ルート上にあるおもな誘導表示はおもに3種類。

①矢羽根

路面にペイントされた青い矢印状の表示。基本は100mに1カ所設置されているが、場所により50mに1カ所だったり、迷いやすい場所ではさらに多い場合もある。ナショナルサイクルルートの整備として設置されたものがほとんどで、従来からある自転車歩行者専用道には少ない傾向がある。自転車歩行者道は道に迷う可能性が少ないという判断からか、案内看板や路面表示の整備が後手に回っている印象だ。

また都市部の自転車通行安全のために設置された矢羽根と規格が同じであるため、都市部では混同してルートを誤る可能性がある。


矢羽根の色と大きさは一部をのぞき統一されている


都市部では自転車安全用の矢羽根と区別がつかない

②案内看板

ルート上に設置された幅15cm、高さ45cmの小さな看板で、ナショナルサイクルルートの統一ロゴが描かれているが、サイズが小さく見落としがち。
5km間隔で進行方向左側の路肩または歩道上に設置されているものと、分岐部の前に設置されているものがある。5km間隔で設置されているものは、次のゲートウェイやサイクルステーションまでの距離が表示されているが、施設名が小さすぎて走行しながらの判読は不可能。

5kmおきに出てくる案内看板。K08というのは神奈川県の8番目のサイクルステーションを表すが、走りながらこの文字を判読することはできない


200m先でルートが右へ向かうという表示

③路面表示

案内看板と同様デザインの路面表示が分岐部手前にペイントされている。また統一ロゴのペイントもルート上に5kmおきに設置されることとなっているが、これは設置箇所が少ない。


路面表示。この先40mでルートが左折するという表示


統一ロゴのペイントは路面表示とセットになって表示されていることが多い

そのほかエリアによっては電柱や道路標識の支柱に統一ロゴやゲートウェイ、サイクルステーションまでの距離が記されたものも見受けられる。



電柱に貼り付けられて表示されることも多い


サイクルステーションには、両方向のサイクルステーション、主要都市までの距離が入った大きめの案内看板が設置されている

また矢羽根や路面表示の設置には各自治体により法則性が異なる場合があり、県境をまたいだとたんに方式が変わり戸惑うこともある。これに関しては今後の各県実走編で解説していきたい。

ゲートウェイとは

サイクリスト受入用施設として指定された公共施設

太平洋岸自転車道にアプローチするために適当だと判断された空港や駅、さらに休憩施設として適しているとされた道の駅などがゲートウェイとして指定されている。
レンタサイクルが用意されている、タイヤチューブ、パーツ、携行食が購入可能、エアポンプや工具の貸出が可能、必要な情報が得られ、緊急サポートが受けられるなどの要件を満たす施設が全15カ所。
ルートから離れた道の駅など、その利用価値は微妙だが、MAP上に記載されている。ほかに126カ所のサイクルステーション(サイクルラックなどを用意した施設)、125カ所のサイクリストにやさしい宿も指定されているが、ナショナルサイクルルート指定要件を満たすために準備した感が強く、サイクリストの利用の実情に即しているとは言えないという印象を受ける。


ジャイアントストアが入った白浜キーテラス ホテルシーモアはゲートウェイに位置づけられている


サイクルステーションに指定されている道の駅富士に備え付けられたサイクルラック

ルート情報の入手先

ルートMAPのKMLデータがダウンロードできる

太平洋岸自転車道ナショナルサイクルルート指定推進協議会のホームページ、「太平洋岸自転車道」がとても役に立つ。グーグルマップで作った全行程のルート図が見られるほか、そのデータをKMLデータとしてダウンロードできる。
また情報満載の各県版、各県詳細版のガイドMAPもダウンロードできるなど、太平洋岸自転車道を走る人には欠かせないサイトとなっている。各エリアの観光情報のリンクも充実。


すべての情報が網羅されたサイト。ガイドマップが各県別だけでなく各県詳細版まであるなど、注意深く探さないと大切な情報を見逃してしまう

https://www.kkr.mlit.go.jp/road/pcr/index.html

次回は千葉県の解説編

※このシリーズは次回からエリアごとに解説編、実走編に分けて掲載していく。

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

関連記事

  • この記事がいいねと思ったら
    •  3
  •   この記事のご感想はユーザーのみなさま
  • サイクリングレポート(記事下部)
    サイクリングレポート(記事下部)
    編集部おすすめ
    ランキング