【北海道】利尻島を、自転車で旅する。-サイクルツーリズムの歩みと「島」で出会った風景-
利尻山を中心に、海岸線をぐるりと巡る利尻島。雄大な自然を眺めながら、自分のペースで島を巡る自転車は、島の魅力をじっくり味わうのにぴったりの移動手段です。

現在の利尻島には、大規模自転車道に代表されるサイクリングロードに加え、休憩や簡単なメンテナンスが行える「利尻サイクルオアシス」、自転車を載せることができる路線バスなど、サイクリストを受け入れる環境が整えられてきました。
本記事では、その背景とこれまでの歩みをたどりながら、2026年8月下旬の「利尻島一周ふれあいサイクリング」で実際に島を走った一日を紹介します。
目次
PART 1 BACKGROUND
1 「見る観光」から「体験する観光」への転換
利尻島でサイクルツーリズムを進めるきっかけの一つとなったのが、2014年に宗谷シーニックバイウェイで開催された、観光に関する若手とのワークショップ「しゃべり場」です。従来の物見遊山的な観光から、自然や地域を自ら体験する「アクティビティ型観光」へ転換する必要性が話し合われました。
その後、スイス・ツェルマットの視察を通じて「スイス・モビリティ」やDMOの取組を学び、2015年には「北海道エコ・モビリティ研究会」が設立されました。自転車と公共交通を組み合わせた新しい観光の可能性を探る中、既存のサイクリングロードを観光に生かしたいと考えていた利尻富士町と利尻町が、この動きに加わりました。
2 島を巡る「利尻・彩くるロード」
利尻島には、北海道道1076号「利尻富士利尻自転車道線」があります。自転車専用道は24.9km。一般道路と組み合わせた島一周は約60kmで、森林、海岸線、橋、利尻富士など、次々と変わる風景を楽しめます。
2017年には「利尻島=自転車」というイメージづくりと滞在型観光の促進を目的に、サイクリングロードの愛称を全国公募。415件の応募から、サイクリング大会での人気投票などを経て「利尻・彩くるロード」が誕生しました。


3 「走れる島」から「安心して走れる島」へ
ルートとともに大切なのが、途中で休憩し、飲み物などを確保し、自転車の簡単なトラブルに対応できる環境です。島内には「利尻サイクルオアシス」が設けられ、施設に応じてベンチ、自転車スタンド、給水、空気入れ、工具、トイレなどが提供されています。利尻山と自転車を組み合わせたロゴマークとのぼり旗が目印です。
また、宗谷バスの島内路線バスでは、自転車を車内に積み込むことができます。体力や天候、旅程に合わせて自転車とバスを組み合わせることで、「必ず一周する」ことにこだわらず、自分なりの方法で島旅を楽しめます。
利尻島のサイクルツーリズムを支える大きな3つの要素
① 約60kmの島一周のルート
② 受入(休憩・支援)拠点となるサイクルオアシス
③ 自転車と公共交通を組み合わせるサイクルバス など


4 利尻島から「きた北海道ルート」へ
利尻島から始まった動きは、道北全体へ広がっていきました。2016年に「TEPPEN RIDE」が始まり、2017年には「きた北海道ルート」が北海道のサイクリング・モデルルートに選定。
2019年には「きた北海道サイクルツーリズム連絡会議」が設立され、2024年には旭川で「きた北海道サイクルツーリズムシンポジウム~ナショナルサイクルルートを目指して~」が開催されました。
このようにして、既存の自転車道を活用する取組は、島内の受入環境づくりや公共交通との連携、さらには道北地域をつなぐ広域的なサイクルツーリズムの推進へと発展してきました。
PART 2 RIDE REPORT
1 利尻富士と海を眺めながら、島を訪れた。
「利尻島一周ふれあいサイクリング2026」では、約60kmのサイクリングロードを体験しました。
2026年8月23日、「第36回利尻島一周ふれあいサイクリング2026」に参加しました。島民と全国から集まったサイクリング愛好者が交流する恒例イベントで、順位やタイムを競うレースではありません。
それぞれのペースで景色とふれあいを楽しめることが、大きな魅力です。

2 鴛泊港から、いよいよ島一周へ
朝の鴛泊港フェリー埠頭には、自転車とともに多くの参加者が集合。準備を整え、利尻島自転車道と一般道を組み合わせた「利尻・彩くるロード」へ出発します。
走り始めると、島の中央にそびえる利尻富士と、海岸沿いの開放的な景色が迎えてくれます。一周コースのおもしろさは、走る場所によって利尻富士の表情が変わること。正面に見えていた山が横へ移り、さらに進むと、また違う姿を見せてくれます。


3 坂を越えた先に待つ、利尻島一周コースの絶景
コースは平坦な道ばかりではありません。走りやすい海岸沿いの区間がある一方、緩やかな上り下りが続く場所もあります。上り坂ではギアを軽くし、無理をせず、自分のペースで少しずつ進みます。
坂道は少し大変ですが、上った先の景色と、海からの風を感じながら走る下り坂の爽快感は格別です。速さを競うイベントではないからこそ、参加者同士で声を掛け合い、景色の良い場所ではペースを緩めながら、それぞれの走り方で一周を楽しみます。


4 休憩時間も「ふれあい」のひとつ
約60kmの道のりでは、休憩も大切な時間です。沼浦キャンプ場で昼食を取り、自転車を降りてひと休み。後半に向けてエネルギーをチャージします。
「ここまでどうだった?」「坂が大変だったね」「景色がきれいでしたね」。
参加者同士の何気ない会話が生まれるのも、タイムを競わない「ふれあいサイクリング」ならでは。島全体でサイクリストを迎える環境づくりが、心温まるふれあい体験を支えています。


5 一般道路とはひと味違う、自転車道へ
島を一周する中でもう一つの見どころが、全長24.9kmの「道道1076号利尻富士利尻自転車道線」です。スタート直後にも一部区間を走行しますが、ゴール後半までの区間は一般道路とはガラッと雰囲気が変わり、緑に包まれた森林の中や海を望む区間など、変化に富んだ景観の中を走ることができます。
海、森林、橋、そして利尻富士。景色が切り替わるたびに、「次はどんな風景が待っているのだろう」と自然にペダルが進みます。


6 約60kmを完走。ゴールで温泉が待っていた
ゴールが近くなると、少しずつ脚に疲れが溜まってきます。そんなときは無理をせず、ひと休みして再びスタート。海の向こうまで広がる景色や利尻富士の姿が、もう少し走ってみようと背中を押してくれます。
そして約60kmを走りきり、利尻富士温泉のゴール地点へ。鴛泊港からスタートして自分の力で島を一周した達成感は格別です。
サイクリング後の心地よい疲れを温泉で癒やせることも、このイベントのうれしいところです。

PART 3 EPILOGUE
「走ること」が、すなわち「利尻島を知る旅」になる
島を訪れそして、利尻島ふれあい一周サイクリングを通じて感じたこと。
このイベントの魅力は、単に約60kmを走ることだけではありません。利尻富士をさまざまな角度から眺め、潮風を感じ、坂を上り、気持ちよく下り、休憩ポイントで参加者と語り合う。自転車だからこそ感じられる風や潮の香り、地形の変化、そして間近に感じる利尻富士の存在感があります。
利尻島のサイクルツーリズムは、「見る観光」から「体験する観光」へという地域の思いから始まり、愛称による発信、サイクルオアシス、公共交通との連携、道北への広域展開へと歩みを重ねてきました。その取組が目指すものは、速く走ることでも、必ず一周することでもありません。
潮風を感じながらペダルをこぎ、気になる景色で自転車を止め、地域の施設に立ち寄る。疲れたら無理をせず休む。自分のペースで島そのものを味わえることこそ、自転車で旅する利尻島の魅力です。
自転車だからこそ見える景色、自転車だからこそ出会える場所。利尻島では、「走ること」そのものが旅になります。

情報提供:きた北海道サイクルツーリズム連絡会議(宗谷地区部会)

