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実走調査!日本の自転車道 ルート1 富山湾岸サイクリングコース ②実走編その1

日本のサイクリングルートを走破していくシリーズ。国土交通省のナショナルサイクルルートHPに掲載されている「サイクルツーリズムの推進モデルルート」を中心に、各地の自転車道を不定期連載で紹介する。第2回めは富山湾岸サイクリングコースの実走レポートその1。

DATA
富山県氷見市脇(石川県境)→富山県富山市岩瀬
距離:63km 獲得標高:260m 最大標高:35m
実走調査日:2023年7月26日

どうやってスタート地点へ行くか?

富山湾岸サイクリングコースは、自転車雑誌編集長時代に取材で訪れたことがあり知識は人一倍あるのだが(笑)実際に自分で走ったことはない。ナショナルサイクルルートを走ってないってのはまずかろう。そんな思いでシリーズ1回目は富山に決めた。

この富山湾岸サイクリングコースは基本的に一本道。氷見市側から走るか朝日町側から走るかだが、なんとなく氷見側からにしようと決めていた。どっちが起点とか終点とかないらしいんだけど、自分のなかのイメージだ。左側通行で湾を左手に見て走る。T字路でも道が交差しないので安全だというのもある(同様の理由で島は時計回り、湖は反時計回りが基本だとされている)。

で、どうやって氷見側の起点まで行こうか。じつはこれがなかなか難問だった。


千葉の最寄り駅を始発で出て、富山着は9時28分。しかし氷見駅に着いたのはそこから2時間後だった。JRのチケットはとやまあいの風鉄道もスルーで買えた


新幹線は混んでいなかった。これより遅い便だと接続はいいかもしれないが、平日だったので東京駅までの通勤ラッシュに巻き込まれる恐れが


北陸新幹線には東海道新幹線のような特大荷物コーナーつき座席はない。でも空いていたので問題なく輪行袋を置けた

富山駅から氷見駅は遠い?

解説編にも書いたので詳細は省くが、結局東京駅から北陸新幹線で富山、そこからとやまあいの風鉄道で高岡、さらにJRに乗り継いで氷見、というルートにした。富山まではあっという間に着くんだけど、高岡で1時間待ちになったのが痛かった。


高岡駅まではスムーズに来られたのだが、そこで1時間待ち。氷見行きのバスがあったので乗れるか聞いたら輪行してもダメだって。冷房の効いたバス待合室で過ごせたのはラッキー


待っているあいだに通勤ラッシュ時間を過ぎたので輪行も問題なし


氷見線の電車はボタンを押してドアを開ける方式


懐かしい扇風機


氷見駅でやっと輪行を解く。走ったのは7月末。外にいると恐ろしいほど暑い


やっとサイクリングの始まりー。結局氷見駅からスタート地点まで自走に。行きは違うルートを走りたかったが、いい道がなかったので結局往復することになってしまった


駅を出るとさっそく富山湾岸サイクリングコースの道標が


そして路面にはナショナルサイクルルートのシンボルマークと富山湾岸のピクトグラムが。気分が盛り上がる

やっとスタート地点にたどりつく

スタート地点まで約15km。猛暑でヒーヒーいいながらようやく氷見側の起終点である石川県との県境まで来た。太平洋岸自転車道の起点である銚子や終点の和歌山のようなモニュメントを期待していたが、わりとシンプルな看板のようなものしかなかった。設置スペースがないってことかな。

そして路面にはゴールまで102kmと表示されたペイントが。いよいよスタートだ!


路面のペイントがゴールまでの距離102kmを示す


堤防の上にある石川県と富山県の県境標


堤防に貼り付けられたスタートのモニュメント(?)


その上にあるコンパスみたいなオブジェは、ほぼ真東にあるゴールの朝日町の方向を示している


道の反対側には朝日町側から走ってきた場合のゴールのペイントが。ここはスタートでありゴールでもある、ということだ


「ここから」と表示された誘導標識も

暑い、あまりに暑い

スタートで時間を食いすぎてしまい、なんだかんだで走り始めたのは午後1時半。家を出てから8時間もたっている。日が長い時期とはいえ焦る。風はほぼ無風。平坦な海沿いをゆるゆると走り始める。

平日の午後。それにしてもクルマが少ない。自動販売機やコンビニで休憩しながら走り、氷見市街に戻ってきた。食事は氷見漁港の魚市場食堂。取材経験があるので、立ち寄りポイントなどどこに何があるかはわかっている。そういう意味ではちょっとつまらないかも。

あまりに暑いのでデイリーヤマザキでアイスクリーム休憩。店員さんに、このへんはいつもこんなに暑いのかと聞くと、「ここ数日はとくに暑いですね。でも東京のほうがもっと暑いってニュースで見ましたよ」。そうなんです。東京も危険な暑さ。ここ富山でも外での運動は控えましょうと言われているなかでのサイクリング。すみません。


米良の駐在所前に虻ケ島越しの立山連峰のビューポイントが。このハート型のモニュメントはルート上で3つあった


国道160号は堤防脇を走ったり集落を抜けたりしながら氷見を目指す。クルマは来ない


コンビニにはシンボルマーク入りのサイクルラックも


切り立った白い崖が印象的な半島。ここには阿尾城という城の跡がある。後で知ったが展望台もあるので行ってみればよかった


魚市場食堂で海鮮丼。大きい方から順にはんさ盛り、やわやわ盛り、ちょっこし盛りとあり、今回は暑さで食欲がないのでちょっこし盛りで。それでも十分なボリューム


比美の江公園。休日にはランニングする人などで賑わうのだろうが、平日の炎天下とあって誰もいない

ミニ矢羽根発見!

氷見市街地を海沿いに抜け、漁火ロードという道から海沿いの自転車歩行者専用道へ。富山市より西側では唯一の自転車歩行者専用道部分だ。この分岐には「12月から3月の間及び荒天時は迂回ルートへ」という表示があり、海岸沿いの道は海が荒れたときなどは危険なんだなとわかる。ダブルルートの分岐では、こうやってちゃんと理由を書いてほしいよね。

この自転車歩行者専用道でミニ矢羽根を発見。通常の矢羽根の半分くらいの大きさで、伊豆半島にあるものと同じくらいのサイズ。知る人ぞ知る秘密結社、日本矢羽根研究所の所長(笑)としてはテンションが上がる。


漁火ロードから海岸沿いの自転車歩行者専用道へ


ところどころゲートが閉まっていて、そこを迂回する


ミニ矢羽根発見。ちなみにこのサイズも県の道路仕様書で認められていれば設置が可能


こんな路地を通って雨晴駅へ


雨晴駅には「海越しの立山連峰」の大きな写真が。これをナマで見たいなー

チャンスかピンチか!?

道の駅雨晴(あまはらし)の前は海越しの立山連峰を見る絶景ポイントであり、電車とサイクリストの並走シーンが撮れる場所として有名。今回はカメラマンもいないので海岸に出て潮干狩りをしている人達を横目に見えない立山連峰に目を凝らすのみ。この海岸に出るのに小さな踏切を渡る。聞けばここにはもともと踏切はなかったんだそうだが、線路を横切って海岸に出る人が後を絶たず、設置することになったんだそうだ。

と思ったら踏切の警報機の音が。一時間に1本しかない電車が来る! シャッターチャンスか!? いやアングルなんかを決めてる時間がない。シャッターピンチだ! とっさの判断で線路際に自転車を立てかける。そして電車が来た! 撮影! ……風圧で自転車が倒れた。


シャッターピンチ。この後、電車の風圧で自転車が倒れた。ブレーキレバーがガリッといってしまい涙


道の駅雨晴。一応サイクルステーション。個人的にはこういサイクルステーションの存在意義がわからない。サイクルラックがあって工具やポンプがあるらしいが使ったことはない。中級者以上なら工具やポンプは持ってるし。初級者はそもそも工具使えないし。パンクしてチューブ交換した後にエア圧をキッチリ上げるのにポンプがあればラクだけど。そうか、そのためのものか

世界唯一のエレベーター自転車道

取材のときに教えてもらった内川エリアへ。ここは日本のベニスと呼ばれる、運河沿いに趣のある町並みがある場所で、漁船がたくさん係留されている。秋とか暑くないときに来たかった。

しばらくグルグルと運河沿いを散策した後、海王丸パークへ。休日にイベントなどがあるときは賑わうのだろうが、酷暑の平日はデートしてる男女が一組いただけだった。そのカップルに写真を撮ってもらう。「どこから来たんですか?」と聞かれたので千葉からと答えると「えっ!?」とすごく驚かれた。走ってきたと思われたらしい。新幹線ですよ。

海王丸パークのすぐ先は新湊大橋という美しい橋。ここは車道の下にあいの風プロムナードという通路があって、歩行者と自転車が通れる。ただし自転車は押して通行する。

じつはこの橋ではなく、橋ができるまで主要な交通手段だった渡船(自転車は無料)で富山新港を渡ったほうが雰囲気があっていいんだけどコースはこちら。このプロムナードへはエレベーターで上がるのだが、このあいの風プロムナードは正式な富山湾岸サイクリングコースのルート。つまりここはナショナルサイクルルート唯一の、いや世界唯一の(日本矢羽根研究所調べ)エレベーター自転車道なのだ! それに気が付きいきなりテンションアップ。


内川。もうちょっと頑張ればいい写真が撮れそうだが、あまりに暑くやる気ゼロ


海王丸パークは写真映えするスポット。海王丸が帆を上げるのはイベントのときなどだけらしい


ルートはエレベーターへと誘導される


世界唯一のエレベーター自転車道。太平洋岸自転車道に見られる階段自転車道や未舗装自転車道が裸足で逃げ出す珍自転車道だ。エレベーターの中にもぜひ自転車のピクトグラムを! ちなみにあいの風というのは日本海沿岸に海から吹くそよ風のこと。愛の風じゃない


エレベーターを出ると、この眺望


あいの風プロムナードの全長は480m。地上と違い冷房が効いているのかと思うくらい涼しい。そのせいかランニングしているオジサンがいた。雨の心配もいらないし最高のトレーニング環境かも。運動部の学生が練習に来ているとの話も

歴史を伝える廃線跡の道

もう5時すぎ。夕暮れが迫るなか、今日の宿を目指す。海老江海浜公園のあたりから自転車歩行者専用道に入るのだが、その途中でパイプラインと書かれた看板を見つけた。注意してみると、道路脇にパイプみたいなものが埋設されているようだ。この道はこのパイプラインを地下に通すために作られた道なのかな、なんだか軌道跡を利用した自転車歩行者専用道みたいな感じだ、と思っていた。だが後で話を聞いたら、やはり昔はここに富山地方鉄道射水線という線路があったということだ。

調べてみたら新湊の越ノ潟から富山駅近く(旧新富山駅)まで続く線路(西側は今も万葉線として営業中)は富山新港の建設により鉄橋が壊され線路が分断され、富山側は廃線となったという。海を渡る代替交通機関として渡船が営業を始めたものの、新湊大橋の開通によりその渡船も利用客が激減している。つまりこのエリアの交通の歴史がここに凝縮されているのだ。地図をたどると今でもその軌道跡が富山駅近くまで確認できる。こういった歴史を伝える道を富山湾岸サイクリングコースは走っているのだ。ジーン。
新港建設によりぶった切られた線路跡が復元されていることも後で知った。ああ、行ってみたかったなあ。俺は鉄道マニアでも歴史好きでもないんだけど、人間が作ったものが廃れた場所が好きなんだよなあ。鉱山跡とか廃線跡とか空港跡とか廃墟とか。なんか夢の跡って感じに惹きつけられるのだ。

宿には18時半くらいに到着。ゲストハウス岩瀬。民家を改装して宿にしているとのことで、話し好きでオートバイでの旅経験が豊富なご主人がこのあたりのことをいろいろ教えてくれた。ほかのお客さんとも話ができ、シンプルでいい宿でした。サイクリストのお客さんも多いんだって。

今日は朝早起きだったし炎天下に走ったので疲れた。風呂に入ってスーパーで買ってきた惣菜をノンアルビールで流し込んだらバタンキュー。明日はゴールの朝日町まで走る!


軌道跡のようなサイクリングロード


道路脇にパインプラインの看板。よく見ると道路脇にパイプが。重油が通っているようだ


車道との交差点には車止めがあって走りづらい。軌道跡のサイクリングロードあるあるだ


交差の多い場所はこのありさま。もうどうにでもして


こういう型にはまらない臨機応変な案内表示はありがたい


ルートを通じていちばん交通量が多い国道415号。車道が走りづらければ歩道に逃げる


ゲストハウス岩瀬。安くて清潔。同じ旅人どうしで話ができるのも楽しかった


部屋は和室だった。ドミトリーもある。ゲストハウスなので食事は出ない。トイレ風呂共同。食事などに使える部屋でみんなで話す感じ

DATA

とやまサイクルナビ
https://cycling-toyama.jp/

とやまサイクリングマップ
https://cycling-toyama.jp/wp-content/themes/cyclemap/top/pdf/TOYAMACYCLINGMAP_jp.pdf

魚市場食堂
https://www.kitokitohimi.com/site/gourmet/uoichibashokudou.html

ゲストハウス岩瀬
https://www.gh-iwase.com/

次回は実走編その2

執筆:岩田淳雄

愛知県出身、千葉県在住。
自転車雑誌「サイクルスポーツ 」「バイシクルクラブ」の編集長を歴任。現在は「ペダルプッシャー」を主宰し、サイクリングの啓発活動を展開しています。
https://pedalpusher.jp/

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